皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
2026年の夏も記録的な暑さが続き、8月後半になっても厳しい残暑が続いています。「暑くて散歩をやめてしまった」「休日はエアコンの効いた部屋でずっと座って過ごしている」——最近の診察室で、そんなお話を伺うことが増えました。在宅勤務やデスクワークの方では、気づけば1日の大半を「座ったまま」過ごしているという方も少なくありません。
実はいま、この「座りっぱなし(座位行動)」そのものが、運動不足とは別の独立した健康リスクとして世界的に注目されています。今回のブログでは、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の内容と国内外の研究報告をもとに、座りすぎが血糖値・血圧・中性脂肪に与える影響と、残暑の時期でも今日から無理なく始められる対策を、田園調布・多摩川エリアの皆さまに向けて分かりやすく解説いたします。
猛暑の中での運動の注意点は、関連記事「猛暑でも安全に続ける生活習慣病の運動療法」と合わせてご参考にしてください。
目次
「座位行動」とは?——日本人は世界トップクラスに座っている
「座位行動(ざいこうどう)」とは、座ったり寝転んだりした状態で行われる、エネルギー消費の少ない(1.5メッツ以下の)覚醒中の行動を指す言葉です。デスクワーク、テレビ、スマートフォン、車の運転など、私たちの生活の多くがこれに当てはまります。
あまり知られていませんが、日本人は「世界で最も長く座っている国民」のひとつです。世界20カ国の成人の座位時間を比較した国際調査では、日本人の平日の座位時間は1日約7時間(420分)と、調査対象国の中で最長クラスであったことが報告されています。
さらに2026年の夏のような厳しい暑さが続くと、外出や散歩を控えるぶん歩数が減り、冷房の効いた室内で座って過ごす時間はどうしても長くなりがちです。「暑さで運動量が減る」×「座位時間が延びる」という二重の変化が、残暑の時期に体重・血糖値・血圧がじわりと悪化しやすい背景のひとつと考えられます。
|
ポイント|「運動不足」と「座りすぎ」は別もの ① 運動不足:ウォーキングや筋トレなど、体を動かす時間が足りないこと ② 座りすぎ(座位行動):起きている間に、座ったままの時間が長く続くこと。運動習慣がある方でも起こりえます |
なぜ座りすぎが血糖・血圧・脂質に悪いのか
長時間座り続けることが体に良くない理由は、単に「カロリーを消費しないから」だけではありません。鍵を握るのは、体の中で最大の「糖の消費工場」である脚の筋肉です。
メカニズム図解|「座りっぱなし」が代謝を悪くする流れ
| 脚の大きな筋肉が「休止状態」になる:座っている間、太もも・ふくらはぎの筋肉はほとんど収縮しません | |
| 糖や脂肪の取り込みが低下する:筋肉が糖(ブドウ糖)を取り込む働きや、中性脂肪を分解する酵素(リポ蛋白リパーゼ)の活性が下がると考えられています | |
| 血流もゆっくりに:脚の血流が滞りやすくなり、血管の内側(血管内皮)の働きにも影響します | |
| 食後高血糖・脂質異常・血圧上昇につながりやすくなる:この状態が毎日長時間続くことで、糖尿病・脂質異常症・高血圧・肥満などの生活習慣病リスクの上昇と関連すると報告されています |
特に食後は、本来なら筋肉が血液中のブドウ糖をどんどん取り込んでくれる時間帯です。食後にそのまま座り続けると、血糖値の急上昇(血糖値スパイク)が起こりやすくなることが知られています。当院の関連記事「健診でHbA1c・血糖値を指摘されたら」でも解説したとおり、「糖尿病予備群」の段階から食後高血糖への対策は重要です。
「週末に運動しているから大丈夫」ではない?——最新エビデンス
ここで多くの方が気になるのが、「ジムや週末のランニングで運動しているなら、平日のデスクワークは帳消しになるのか?」という点だと思います。
国内外の研究を総合すると、次のように整理できます。
| 研究報告 | 分かってきたこと |
|---|---|
| 約100万人を対象とした国際的な統合解析(Ekelund ら、2016年) | 座位時間が長いほど死亡リスクは高い傾向。ただし1日60分以上の活発な身体活動がある人では、そのリスク上昇がかなり打ち消されていた |
| 座位の「中断」を検証した試験(Dunstan ら、2012年) | 20〜30分ごとに2分程度の軽い歩行を挟むだけで、座り続けた場合に比べて食後の血糖値・インスリン値が有意に低下した |
| 複数試験の統合解析(Buffey ら、2022年) | 食後の2〜5分程度のごく軽い歩行でも、座ったままと比べて食後血糖の上昇がゆるやかになった |
つまり、まとまった運動はもちろん大切ですが、それだけでは長時間の座位の影響を完全には打ち消しにくく、「こまめに立ち上がって座位を中断する」こと自体に意味がある——というのが、現在の研究から見えてきている姿です。逆にいえば、運動が苦手な方でも「立ち上がる回数を増やす」ことから始められる、というのは心強いお話ではないでしょうか。
|
ご注意|効果を保証するものではありません ここでご紹介した研究結果は集団を対象としたものであり、効果の現れ方には個人差があります。すでに糖尿病・高血圧・脂質異常症で治療中の方は、自己判断でお薬や治療を変更せず、生活習慣の工夫と併せて主治医にご相談ください。 |
厚労省「身体活動・運動ガイド2023」が勧めること
こうしたエビデンスを踏まえ、厚生労働省が2024年1月に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、旧来の基準(2013年版)から10年ぶりの改訂にあたり、初めて「座位行動」という概念が正面から取り上げられました。成人・高齢者に共通する推奨は「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な方も、じっとしている時間が長くなりすぎないように、少しでも身体を動かす)」というものです。
ガイド2023の推奨(要点)
| 対象 | 推奨される身体活動 |
|---|---|
| 成人 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日約8,000歩以上(週23メッツ・時以上)/息が弾み汗をかく程度の運動を週4メッツ・時以上/筋力トレーニングを週2〜3日 |
| 高齢者 | 1日約6,000歩以上(週15メッツ・時以上)/バランス・柔軟・筋トレなどを組み合わせた多要素な運動を週3日以上 |
| 全世代共通 | 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する。個人差を踏まえ、「今より少しでも多く」体を動かすことから |
大切なのは、このガイドが「全員が同じ目標を達成すべき」ではなく、「個人差を踏まえ、今より少しでも多く体を動かす」という考え方を採用している点です。8,000歩が難しい日でも、座位の中断なら今日から誰でも実践できます。糖尿病の運動療法を扱った「糖尿病診療ガイドライン2024」(日本糖尿病学会)でも、日常の身体活動量を評価し増やしていくことが重視されています。
今日からできる「座りっぱなし対策」——残暑の時期の実践編
とはいえ、まだ日中は35℃前後まで気温が上がる日もあります。熱中症のリスクを冒してまで屋外で頑張る必要はありません。冷房の効いた室内でできる「座位の中断」を中心に、当院がおすすめする工夫をご紹介します。
デスクワーク・在宅勤務の方
・30分に1回、立ち上がる——タイマーやスマートウォッチのリマインダーを活用しましょう。立って伸びをする、給湯室まで歩くだけで十分です
・電話・オンライン会議は立って——カメラオフの会議は立ったまま参加するのもおすすめです
・昼食後に2〜5分歩く——廊下の往復や、その場での足踏みでも構いません。食後の血糖上昇対策としては、食後すぐ〜1時間以内が狙い目です
・印刷・ゴミ捨て・お茶くみを「あえて」こまめに——用事をまとめず、立つ口実を増やしましょう
ご自宅で過ごす時間が長い方・ご高齢の方
・テレビのCMごと、または番組の区切りごとに立ち上がる
・「ながらスクワット」や、椅子からの立ち座り運動を1日数回に分けて
・買い物や水やりなどの家事を朝夕の涼しい時間帯に——こまめな水分補給と併せて熱中症対策も忘れずに
・長く座るときはふくらはぎを動かす(かかとの上げ下げ)——脚の血流維持に役立ちます
暑い時期の水分補給や熱中症対策の詳細は、関連記事「猛暑でも安全に続ける生活習慣病の運動療法」もご覧ください。また、座位時間の削減は内臓脂肪・メタボリックシンドローム対策とも深く関わります。
|
まずはここから|今日の「立ち上がりチェック」 □ 30分に1回、立ち上がることを意識できた □ 昼食・夕食のあとに2〜5分、体を動かした □ 1日の歩数をスマートフォンなどで確認した □ 涼しい時間帯・室内で、できる範囲の運動を続けられた |
受診の目安・チェックリスト
座りっぱなしの生活が続いている方で、次のような項目に当てはまる場合は、生活習慣の見直しとあわせて一度医療機関でのチェックをおすすめいたします。当院は糖尿病内科・代謝内科・生活習慣病の外来を設けており、健診結果の見方のご相談から食事・運動のアドバイスまで、継続的にサポートいたします。
|
受診前チェックリスト □ 健康診断で血糖値・HbA1c・血圧・中性脂肪・LDLコレステロールのいずれかを指摘された □ この夏で体重が2〜3kg以上増えた、または腹囲が気になってきた □ 仕事や生活で1日8時間以上座っていることが多い □ 家族に糖尿病・高血圧・脂質異常症の方がいる □ 直近の健診結果(お持ちであれば)・服用中のお薬手帳 |
当院は土曜午前も診療しております。平日はお仕事で忙しい働き盛り世代の方も、健診結果票を片手にお気軽にご相談ください。ご予約は本記事末尾のWEB予約・LINE・お電話(03-3721-5222)から承っております。
五良会グループの関連診療・関連記事
医療法人社団五良会では、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪、そしてグループ連携先の五良ファミリークリニックセンター南(医療法人社団正友会・横浜市都筑区)が連携し、生活習慣病の予防から専門的な検査・治療までを多角的にサポートしております。
|
関連記事|竹内内科小児科医院(田園調布)
|
|
関連記事|五良会クリニック白金高輪(港区)
|
|
関連記事|五良ファミリークリニックセンター南(横浜市都筑区)
|
五良会グループでは、田園調布から白金高輪まで医師が連携しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月公表)https://www.mhlw.go.jp/content/001204942.pdf(2026年8月閲覧)
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024.
- 日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』2025.
- Bauman A, et al. The descriptive epidemiology of sitting: a 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med. 2011;41(2):228-235.
- Ekelund U, et al. Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women. Lancet. 2016;388(10051):1302-1310.
- Dunstan DW, et al. Breaking up prolonged sitting reduces postprandial glucose and insulin responses. Diabetes Care. 2012;35(5):976-983.
- Buffey AJ, et al. The acute effects of interrupting prolonged sitting time in adults with standing and light-intensity walking on biomarkers of cardiometabolic health in adults: a systematic review and meta-analysis. Sports Med. 2022;52(8):1765-1787.
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医