皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
2026年の夏も厳しい暑さが続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。まもなくお盆の時期を迎え、田園調布・大田区の皆さまの中にも、帰省でご実家のご両親と久しぶりに顔を合わせる方、あるいはお子さまやお孫さまを迎える側の方も多いのではないかと思います。
実はこの「久しぶりに会う」機会こそ、離れて暮らす親御さんの心身の変化に気づける貴重なチャンスです。「なんだか痩せた気がする」「歩くのが遅くなった」「食が細くなった」——それは単なる「夏バテ」ではなく、フレイル(加齢により心身の活力が低下した状態)のサインかもしれません。
今回のブログでは、国立長寿医療研究センターによる改定日本版フレイル基準(J-CHS基準・2020年改定)や総務省消防庁の最新データをもとに、夏に進みやすい高齢者のフレイルの見分け方と、帰省のときにご家族ができるチェックポイント、そして今日から始められる予防のコツを、内科・訪問診療を行う「かかりつけ医」の立場から分かりやすくお伝えいたします。
目次
夏は高齢者の体力が落ちやすい季節です
「夏を越すたびに親が弱っていく気がする」——外来でご家族からこうしたご相談をいただくことが、毎年この時期になると増えてまいります。これは決して気のせいではありません。
高齢の方は暑さで外出を控えがちになり、活動量が減ります。さらに食欲が落ちて、そうめんやお茶漬けなど「のどごしの良い炭水化物中心」の食事に偏りやすく、筋肉の材料となるたんぱく質が不足しがちです。加えて、加齢により「のどの渇き」を感じにくくなるため、気づかないうちに脱水が進みやすいことも知られています。
|
データで見る|高齢者と夏のリスク ① 熱中症搬送の約6割が65歳以上:総務省消防庁の集計では、2025年夏(5〜9月)の熱中症による救急搬送は全国で10万人を超えて過去最多となり、その約6割を65歳以上の高齢者が占めました。 ② 発生場所は「住居」が約4割:屋外ではなく、自宅の中での発症が最も多いことが報告されています。「家にいるから大丈夫」とは言えないのが実情です。 ③ 夏は「見えない低栄養」の季節:食欲低下と活動量減少が重なることで、体重と筋肉量が落ち、フレイルが進みやすくなります。 |
大切なのは、こうした夏の体力低下を「年のせいだから仕方ない」と放置しないことです。フレイルは適切な対策により改善が期待できる状態とされており、早く気づくことに大きな意味があります。
「夏バテ」と「フレイル」はどう違う?——5つの診断基準
フレイル(frailty)とは、加齢に伴って心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下し、「健康」と「要介護」の中間にある状態を指します。一時的な夏バテと異なり、フレイルは放置すると要介護状態へ進みやすい一方、早期に対策すれば健康な状態への回復も期待できる「可逆性」が特徴です。
日本では、国立長寿医療研究センターがまとめた改定日本版フレイル基準(J-CHS基準・2020年改定)が広く用いられています。次の5項目のうち3つ以上に当てはまるとフレイル、1〜2つでプレフレイル(フレイル予備群)と評価されます。
| 項目 | 評価基準(J-CHS基準 2020年改定) |
|---|---|
| 1. 体重減少 | 6か月で2kg以上の(意図しない)体重減少 |
| 2. 筋力低下 | 握力が男性28kg未満・女性18kg未満 |
| 3. 疲労感 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする |
| 4. 歩行速度の低下 | 通常歩行速度が毎秒1.0m未満(青信号のうちに横断歩道を渡りきれない、が一つの目安) |
| 5. 身体活動の低下 | 軽い体操や定期的な運動・スポーツをいずれもしていない |
握力や歩行速度はご家庭では正確に測りにくいものですが、「ペットボトルのフタが開けにくくなった」「以前より歩くのが遅くなり、信号で焦るようになった」といった日常の変化が手がかりになります。気になる場合は、当院でも評価のご相談を承っております。
メカニズム図解|夏にフレイルが進む「負のスパイラル」
メカニズム図解|暑さから始まる悪循環
| 猛暑で外出・活動が減る:暑さを避けて家にこもりがちになり、歩く量・人と会う機会が減ります。 | |
| 食欲が落ち、食事が偏る:そうめん・パンなど炭水化物中心になり、筋肉の材料であるたんぱく質と水分が不足します。 | |
| 筋肉量・体重が減る(サルコペニア):使われない筋肉は速いペースで落ちていき、基礎体力が低下します。 | |
| 熱中症・転倒・感染症に弱くなる:筋肉は「体の水分の貯蔵庫」でもあるため、筋肉が減ると脱水や熱中症を起こしやすくなり、さらに動けなくなる——という悪循環に陥ります。 |
筋肉量が減ると体に蓄えられる水分量も減るため、「フレイルが進むほど熱中症に弱くなる」という点は、夏の高齢者ケアでぜひ知っておいていただきたいポイントです。
帰省したらチェック!「親の変化」10のサイン
お盆に帰省されたら、ぜひさりげなく次のポイントを確認してみてください。ご本人は「大丈夫」とおっしゃることが多いため、会話と生活環境の観察がカギになります。
|
帰省時のフレイル気づきチェックリスト □ 以前より痩せた・頬がこけた印象がある(半年で2kg以上の体重減少は要注意) □ ズボンやスカートのウエストがゆるくなっている、指輪や時計がゆるい □ 歩くのが遅くなった、すり足になった、手すりを頼るようになった □ 冷蔵庫の中に同じものばかりある、賞味期限切れが増えた、肉・魚・卵が少ない □ 飲み残しのお薬がたまっている(飲み忘れの増加) □ 猛暑日でもエアコンをつけていない、「もったいない」と我慢している □ 食事の際にむせることが増えた、硬いものを避けるようになった □ 外出や人付き合いが減り、1日中テレビの前で過ごしている □ 「疲れた」「面倒くさい」という言葉が増えた □ 同じ話を繰り返す、日付や約束のもの忘れが気になる |
これらのサインが複数当てはまる場合は、フレイルやその背景に病気が隠れている可能性があります。「年のせい」と決めつけず、一度かかりつけ医にご相談いただくことをおすすめいたします。
今日からできるフレイル予防——食事・水分・運動・つながり
1. たんぱく質を「毎食」とる
筋肉を守るためには、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などのたんぱく質を3食に分けてこまめにとることが大切です。食欲がないときも、冷奴、温泉卵、ヨーグルト、牛乳、ツナ缶、サバ缶など、暑い日でも食べやすい「たんぱく質のちょい足し」を意識してみてください。厚生労働省の「食べて元気にフレイル予防」でも、多様な食品をまんべんなくとることが勧められています。
2. のどが渇く前に、水分をこまめに
高齢の方は渇きを自覚しにくいため、「時間を決めて飲む」のがコツです。起床時・食事のとき・入浴前後・就寝前など、生活の節目でコップ1杯ずつを目安にしてください。発汗が多い日は、水分と同時に塩分(電解質)の補給も意識しましょう。持病で水分や塩分の制限を受けている方は、自己判断せず主治医にご確認ください。
3. エアコンは「我慢しない」
|
重要|室内でも熱中症は起こります 熱中症の発生場所で最も多いのは「住居内」です。日中だけでなく夜間・就寝中もエアコンを適切に使用し、室温28℃を超えないよう調整することが勧められています。「電気代がもったいない」という親御さんには、温湿度計を置いて「数字で判断する」習慣づくりや、離れて暮らすご家族からの声かけが有効です。 |
4. 涼しい時間帯・室内での運動
早朝・夕方の涼しい時間帯の散歩や、室内でできるスクワット・かかと上げなどの簡単な筋力運動を、無理のない範囲で続けることが筋肉維持につながります。テレビを見ながらの「ながら運動」でも構いません。
5. 人とのつながりを保つ
フレイル予防は栄養・運動に加えて社会参加が3本柱とされています。電話やビデオ通話での定期的な連絡、地域のサロンや趣味の集まりへの参加は、心身の活力維持に役立ちます。お盆の帰省そのものが、親御さんにとって何よりの「社会参加」になります。
こんなときは受診をご検討ください
|
重要|早めの受診をおすすめするサイン ・半年で2kg以上の意図しない体重減少がある(がん・甲状腺疾患・糖尿病などが隠れていることもあります) ・食事量が明らかに減り、1日2食以下の日が続いている ・むせ・咳き込みが増えた(誤嚥性肺炎のリスク) ・ふらつき・転倒があった、立ち上がりがつらくなった ・ぐったりしている、呼びかけへの反応が鈍い(熱中症・脱水の疑い——ためらわず救急要請を) ・もの忘れの進行が気になる |
体重減少や食欲低下の背景には、フレイル以外の内科疾患が隠れていることも少なくありません。当院では血液検査などで原因を確認しながら、お一人おひとりに合わせた対応をご提案いたします。
|
受診前チェックリスト(ご家族が付き添う場合) □ ここ半年〜1年の体重の変化(分かる範囲で) □ 1日の食事内容・回数のメモ □ 服用中のお薬(お薬手帳) □ 気になる変化のメモ(歩き方・むせ・もの忘れなど、いつ頃から) □ 健診結果(大田区特定健診・長寿健診の結果票など) |
当院・五良会グループのサポート体制
竹内内科小児科医院は、東急東横線・目黒線「多摩川駅」徒歩5分、田園調布の地で長く地域医療を担ってまいりました。糖尿病・生活習慣病の管理から高齢の方の体調変化のご相談まで、「かかりつけ医」として継続的にサポートいたします。
通院が難しくなってきた方には訪問診療のご相談も承っております。また、土曜午前も診療しておりますので、平日はお仕事のあるご家族が付き添っての受診や、帰省の機会に合わせたご相談もしやすい体制です。管理栄養士による栄養相談を通じて、夏の食事の工夫についても具体的にご提案できます。
五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪が連携し、さらにグループの五良ファミリークリニックセンター南(横浜市都筑区)では認知症外来・高齢者糖尿病・訪問診療にも対応しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
|
関連記事|竹内内科小児科医院(田園調布)
|
五良会グループでは、田園調布から白金高輪、横浜・センター南まで医師が連携しております。高齢のご家族の認知症や訪問診療に関するより専門的なご相談は、グループの五良ファミリークリニックセンター南とも連携してご対応いたします。
参考文献
- 国立長寿医療研究センター「日本語版フレイル基準(J-CHS基準)2020年改定」(2026年7月閲覧)
- 総務省消防庁「令和7年(2025年)夏期における熱中症による救急搬送状況」(2026年7月閲覧)
- 厚生労働省「食べて元気にフレイル予防」(2026年7月閲覧)
- 日本サルコペニア・フレイル学会「フレイルとは」(2026年7月閲覧)
- 荒井秀典 編. フレイル診療ガイド2018年版. 日本老年医学会・国立長寿医療研究センター.
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医