皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
秋の健康診断シーズンを迎え、田園調布・大田区の外来でも「血糖値が高めなので、そろそろお薬を始めましょうと言われました。糖尿病の薬って、たくさん種類があるようですが、どう違うのですか?」というご質問をいただくことが増えてまいりました。実際、2型糖尿病の飲み薬は現在大きく分けて9系統、さらに注射薬もあり、患者さまが混乱されるのも無理はありません。
今回のブログでは、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」と「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版・2023年)」に基づき、糖尿病のお薬がどのような考え方で選ばれるのか、それぞれの系統の特徴と注意点を、患者さまの目線でやさしく解説いたします。
前回の記事「健診で「血糖値・HbA1cが高め」と言われたら|糖尿病の診断基準」の続編として、「診断されたあと、治療はどう進むのか」を知りたい方にもお読みいただける内容です。
目次
お薬はいつから始める?——まずは食事・運動から
2型糖尿病の治療の土台は、いつの時代も食事療法と運動療法です。日本糖尿病学会のアルゴリズムでも、薬物療法は「食事・運動などの生活習慣改善を行ったうえで、目標の血糖コントロールが達成できない場合」に検討する、と位置づけられています。
一方で、診断時にすでに血糖値がかなり高い場合(目安としてHbA1c 9%を超えるような場合)や、のどの渇き・体重減少などの症状がある場合には、最初からお薬やインスリンを併用することもあります。「お薬を始める=負け」ではなく、膵臓を疲れさせないうちに早めにサポートしてあげるという前向きな選択であることを、ぜひ知っていただきたいと思います。
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ポイント|血糖コントロールの目標は「人それぞれ」 ① 合併症予防のための一般的な目標:HbA1c 7.0%未満 ② 血糖正常化を目指す場合:HbA1c 6.0%未満(低血糖なく達成できる方) ③ 治療強化が難しい場合:HbA1c 8.0%未満。ご高齢の方は年齢・認知機能・使用薬剤によって目標を緩めます(高齢者のHbA1c目標の記事もご参照ください) |
日本のアルゴリズムでは「病態に合わせて」選びます
欧米のガイドラインでは「まずメトホルミン」と第一選択薬が決まっていることが多いのですが、日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」は少し違います。日本人の2型糖尿病は欧米に比べて肥満が少なく、インスリンを出す力(分泌能)の低下が目立つ方が多いため、一人ひとりの「病態」に合わせて薬を選ぶ、という考え方を採用しているのです。
メカニズム図解|お薬が決まるまでの4つのステップ
| インスリンがすぐ必要かを判断:著しい高血糖・1型糖尿病の可能性・妊娠中などでは、まずインスリン治療を検討します | |
| 病態を評価:肥満があり「インスリンが効きにくい」タイプか、やせ型で「インスリンを出す力が弱い」タイプかを、体格や検査値から見極めます | |
| 安全性と併存疾患を考慮:低血糖リスク、腎臓・心臓・肝臓の状態、体重への影響、年齢、お薬代なども含めて絞り込みます。心不全や慢性腎臓病がある方では、臓器を守る効果が示されている薬が優先されることがあります | |
| 約3か月ごとに見直し:効果が不十分なら増量・追加・変更を検討します。一度決めたら終わり、ではなく「育てていく」治療です |
つまり、同じHbA1cの値でも、体型・年齢・腎機能・生活スタイルによって最適なお薬は変わります。「お隣さんと同じ薬」が自分に合うとは限らない、というのが糖尿病治療の面白く、また難しいところです。
飲み薬9系統の特徴一覧
現在、日本で使える2型糖尿病の飲み薬は9系統あります。大きく「インスリンを出しやすくする薬」「インスリンの効きをよくする薬」「糖の吸収や排泄を調整する薬」に分けて整理してみましょう。
| 系統(代表的な薬) | 主な働き | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| ビグアナイド薬 (メトホルミン) |
肝臓が糖を作りすぎるのを抑える | 世界で最も使われてきた基本薬。体重が増えにくく安価。飲み始めの胃腸症状、腎機能低下時は減量・中止。造影CT検査の前後は休薬が必要 |
| SGLT2阻害薬 | 余分な糖を尿から出す | 体重減少が期待でき、心不全・腎臓を守る効果のエビデンスが豊富。脱水・尿路や性器の感染症に注意。体調不良時(シックデイ)は休薬 |
| DPP-4阻害薬 | 血糖が高いときだけインスリン分泌を助ける | 単独では低血糖を起こしにくく、体重も増えにくい。日本で広く処方され、ご高齢の方にも使いやすい |
| イメグリミン | ミトコンドリアに働き、分泌と効きの両面を改善 | 近年登場した新しい系統。メトホルミンと似た構造で、併用時は胃腸症状に注意 |
| SU薬 (スルホニル尿素薬) |
膵臓を刺激してインスリンをしっかり出させる | 血糖を下げる力は強力で安価。低血糖と体重増加に最も注意が必要。ご高齢の方では少量から慎重に |
| グリニド薬 | 食事の直前に飲み、食後のインスリン分泌を素早く助ける | 食後高血糖タイプの方に。必ず食直前に服用(飲み忘れて食後に飲むのはNG) |
| α-グルコシダーゼ阻害薬 | 腸での糖の消化・吸収をゆっくりにする | 食後高血糖対策の薬。おなかの張り・ガスが出やすい。低血糖時は砂糖ではなくブドウ糖で対処 |
| チアゾリジン薬 (ピオグリタゾン) |
脂肪組織に働き、インスリンの効きをよくする | インスリン抵抗性が強い方に。むくみ・体重増加に注意し、心不全のある方には使いません |
| 経口GLP-1受容体作動薬 (セマグルチド錠) |
食欲を抑え、血糖依存的にインスリン分泌を助ける | 注射薬だったGLP-1の飲み薬版。起床時・空腹の状態で少量の水で飲むなど、服用方法に独特のルールがあります |
「9種類もあって覚えられない」と思われるかもしれませんが、患者さまが全部を覚える必要はまったくありません。大切なのは、ご自身が飲んでいるお薬がどの系統で、何に気をつければよいかを知っておくことです。当院ではお薬をお出しする際に、必ずその点をご説明するようにしております。
注射薬(GLP-1受容体作動薬・インスリン)の位置づけ
GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬
週1回または1日1回の注射で、血糖が高いときだけインスリン分泌を助け、食欲も抑えるお薬です。セマグルチド(商品名オゼンピックなど)やデュラグルチド、さらにGIPとGLP-1の両方に働くチルゼパチド(商品名マンジャロ)が使われています。体重減少効果が大きく、肥満をともなう2型糖尿病の方には心強い選択肢ですが、吐き気・便秘などの消化器症状が出ることがあり、少量から段階的に増やしていきます。
インスリン
「インスリン=最終手段」というイメージをお持ちの方が多いのですが、これは誤解です。1型糖尿病の方、妊娠中の方、著しい高血糖の方ではインスリンが最初から必要ですし、2型糖尿病でも一時的にインスリンで膵臓を休ませてから飲み薬に戻す、という戦略をとることもあります。早めに使うことで膵臓の力を守れるケースも少なくありません。
こんな方にはこんな選び方——外来でよくある2つのケース
実際の選び方のイメージを、当院の外来でよくお会いするような患者さま像でご紹介します。いずれも実在の患者さまではなく、典型的な経過を組み合わせた架空の例です。
ケース1:62歳男性・会社員(HbA1c 8.2%・BMI 27)
健診で指摘され受診。おなかまわりの脂肪が目立ち、血圧・中性脂肪も高め——典型的な「インスリンが効きにくい」タイプです。食事・運動の見直しとあわせて、肝臓の糖新生を抑えるメトホルミンから開始し、効果が不十分なら体重減少と心臓・腎臓の保護が期待できるSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の追加を検討する、という流れが一つの典型例です。減量が進めば、お薬を減らせる可能性も十分あります。
ケース2:78歳女性・やせ型(HbA1c 7.8%・一人暮らし)
やせ型で食も細く、腎機能も年齢相応に低下——「インスリンを出す力が弱い」タイプで、なにより低血糖を絶対に避けたい方です。単独では低血糖を起こしにくいDPP-4阻害薬などを少量から始め、HbA1cの目標も7.0%未満にこだわらず、安全域を持たせて設定します。強力なSU薬を漫然と使い続けることは、この年代ではかえって危険になり得ます。
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大切なこと|自己判断での中断・調整は危険です 「血糖値が下がったからやめた」「知人に勧められた薬に変えたい」——外来でときどき伺うお話ですが、自己判断での中断は高血糖の再燃や合併症進行につながります。お薬への疑問・不安は、どんな小さなことでも診察室でお聞かせください。減らせるときは、私たちから積極的にご提案いたします。 |
お薬を安全に続けるために——低血糖とシックデイ
糖尿病のお薬と長く付き合ううえで、ぜひ覚えていただきたいのが次の2点です。
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重要|低血糖のサインと対処 ・冷や汗、手のふるえ、動悸、強い空腹感、集中できない——これらは低血糖のサインです ・すぐにブドウ糖10g(またはブドウ糖を含むジュース)を摂り、15分たっても改善しなければもう一度 ・SU薬・グリニド薬・インスリンを使用中の方は、外出時にブドウ糖の携帯を習慣にしてください |
また、発熱や下痢・嘔吐で食事がとれない「シックデイ(体調の悪い日)」には、メトホルミンやSGLT2阻害薬はいったんお休みするのが原則です。どの薬を休み、どの薬を続けるかはあらかじめ主治医と決めておくと安心です。旅行や災害時の備えも含め、詳しくは「糖尿病の方の旅行・帰省ガイド|シックデイの備え」をご覧ください。
「痩せる薬」として話題のGLP-1——治療と美容目的の線引き
SNSなどで「痩せる注射」としてGLP-1受容体作動薬が話題になっていますが、注意が必要です。オゼンピックやマンジャロなどのお薬が保険で使えるのは、2型糖尿病の治療として医師が必要と判断した場合です。糖尿病のない方への美容・痩身目的の使用は承認された適応ではなく、日本糖尿病学会も2023年4月の見解で適応外使用に対して注意喚起を行っており、PMDA(医薬品医療機器総合機構)からも2025年8月に適正使用に関するお知らせが出ています。
肥満症に対しては別途、一定の条件を満たした場合に保険適用となるお薬(セマグルチド〔商品名ウゴービ〕やチルゼパチド〔商品名ゼップバウンド〕)がありますが、これも「誰でも処方できる痩せ薬」ではありません。体重や血糖のお悩みは、自由診療の広告に飛びつく前に、まず保険診療の枠組みでご相談いただければと思います。
よくあるご質問
Q. 一度始めたら、一生やめられないのですか?
A. そんなことはありません。食事・運動で体重と血糖が改善すれば、減量・中止できる方は実際にいらっしゃいます。特に発症早期に治療を始めた方ほど、その可能性は高くなります。
Q. 薬の種類が多くて、飲み忘れが心配です。
A. 配合薬(2つの成分が1錠になったお薬)や週1回の飲み薬・注射薬など、負担を減らす選択肢が増えています。ライフスタイルに合わせて調整しますので、遠慮なくご相談ください。
Q. 健診で「血糖値が高め」と言われただけでも受診してよいですか?
A. もちろんです。糖尿病と診断がつく前の「境界型」の段階から介入するほど、合併症の予防効果は大きくなります。当院は糖尿病内科・代謝内科として、境界型の段階からの生活指導にも力を入れております。
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受診前チェックリスト(糖尿病のお薬のご相談) □ 健診結果(血糖値・HbA1cの記載があるもの) □ 現在服用中のお薬・サプリメントがわかるもの(お薬手帳) □ ご家族の糖尿病の有無 □ 気になる症状(のどの渇き、体重の変化、足のしびれなど)のメモ |
竹内内科小児科医院は、田園調布・多摩川エリアの「かかりつけ医」として、糖尿病内科・代謝内科の外来で薬物療法から食事・運動のご相談まで一貫して対応しております。土曜午前も診療しておりますので、平日お忙しい方もご利用ください。ご予約は下記のWEB予約・LINE・お電話(03-3721-5222)から承っております。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会. 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版). 糖尿病. 2023;66(10):715-733.
- 日本糖尿病学会「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」(2023年4月12日)
- PMDA(医薬品医療機器総合機構)「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ」(2025年8月5日)
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院、港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南が連携し、糖尿病の診断から薬物療法・合併症管理までを多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医