皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
朝晩はすっかり秋らしくなってまいりました。さて、当院の糖尿病内科には、妊婦健診で「血糖が高め」「妊娠糖尿病の疑い」と言われて不安な表情で来院される方が少なくありません。妊娠糖尿病は決してめずらしい病気ではなく、日本産科婦人科学会によると妊婦さんの約7〜9%、およそ12〜14人に1人が診断されると報告されています。
「甘いものを食べすぎたせい?」「赤ちゃんに影響はないの?」——そんなご心配をよく伺いますが、妊娠糖尿病は体質と妊娠のしくみが重なって起こるもので、ご自身を責める必要はまったくありません。そして、きちんと血糖を管理すれば、ほとんどの方が元気な赤ちゃんを出産されています。
今回のブログでは、日本糖尿病・妊娠学会の診断基準(2015年8月改訂)、同学会編『妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル 第4版』(2025年3月刊行)、日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』に基づき、妊娠糖尿病の検査の流れ・治療・出産後まで続くケアについて、やさしく解説いたします。
目次
妊娠糖尿病とは?——なぜ妊娠中に血糖が上がるのか
妊娠糖尿病(GDM:Gestational Diabetes Mellitus)とは、妊娠中にはじめて発見された、糖尿病には至っていない血糖の上がりやすい状態のことです。もともと糖尿病だった方が妊娠した場合(糖尿病合併妊娠)とは区別されます。
妊娠中に血糖が上がりやすくなるのには、はっきりとした理由があります。
メカニズム図解|妊娠中に血糖が上がるしくみ
| 胎盤からホルモンが分泌される:妊娠が進むと、胎盤から赤ちゃんの成長に必要なホルモンがさかんに分泌されます。 | |
| インスリンが効きにくくなる:これらのホルモンには、血糖を下げるホルモンであるインスリンの働きを弱める作用(インスリン抵抗性)があります。赤ちゃんにブドウ糖を優先的に届けるための、体の自然なしくみです。 | |
| インスリンの追加分泌が追いつかないと…:多くの方は膵臓(すいぞう)がインスリンを増産して対応しますが、もともとインスリンの分泌が控えめな体質の方では増産が追いつきません。 | |
| 血糖値が上がる=妊娠糖尿病:とくに妊娠中期以降(24週ごろ〜)に血糖が上がりやすくなります。だからこそ、この時期に検査が行われるのです。 |
妊娠中の血糖の異常は、正確には次の3つに分けられます。
| 区分 | どんな状態? |
|---|---|
| 妊娠糖尿病(GDM) | 妊娠中にはじめて見つかった、糖尿病には至らない血糖の上昇。今回の記事の主役です。 |
| 妊娠中の明らかな糖尿病 | 空腹時血糖126mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上など、糖尿病に相当する高血糖が妊娠中に見つかった状態。 |
| 糖尿病合併妊娠 | 妊娠前から糖尿病と診断されている方の妊娠。妊娠前からの計画的な血糖管理(計画妊娠)が大切です。 |
妊娠糖尿病になりやすいのはどんな人?
次のような方は妊娠糖尿病のリスクが高いことが知られています。ただし、当てはまらなくても診断される方はいらっしゃいます。
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ポイント|妊娠糖尿病の主なリスク因子 ① 家族歴:ご両親やごきょうだいに糖尿病の方がいる ② 体格:肥満(妊娠前のBMIが25以上) ③ 年齢:35歳以上の妊娠 ④ 出産歴:巨大児(4,000g以上)の出産歴、以前の妊娠で妊娠糖尿病と言われた ⑤ 検査所見:尿糖が陽性になったことがある など |
検査の流れと診断基準——75g糖負荷試験の見方
妊婦健診では、すべての妊婦さんを対象に段階的な血糖のチェックが行われます。一般的な流れは次のとおりです。
| 時期 | 検査 | 次のステップ |
|---|---|---|
| 妊娠初期 | 随時血糖検査(食事の時間に関係なく採血) | 高値なら75g糖負荷試験へ |
| 妊娠中期 (24〜28週) |
50gブドウ糖チャレンジテスト(50gGCT)または随時血糖検査 | 50gGCTで1時間値140mg/dL以上なら75g糖負荷試験へ |
| 精密検査 | 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT):空腹の状態でブドウ糖入りの検査飲料を飲み、飲む前・1時間後・2時間後に採血 | 下の基準で診断 |
75gOGTTでは、日本糖尿病・妊娠学会の診断基準(2015年8月改訂)により、次の3つのうち1つでも当てはまれば妊娠糖尿病と診断されます。
| 測定タイミング | 基準値 |
|---|---|
| 空腹時血糖値 | 92mg/dL以上 |
| 1時間値 | 180mg/dL以上 |
| 2時間値 | 153mg/dL以上 |
|
「一般の糖尿病の基準」より厳しいのはなぜ? 妊娠していない方の糖尿病の診断基準(空腹時126mg/dL以上など)に比べると、妊娠糖尿病の基準はかなり厳しく設定されています。これは、軽い血糖の上昇でもお腹の赤ちゃんに影響が及びうることが大規模研究でわかっているためです。「基準が厳しいから引っかかりやすい」のは、赤ちゃんを守るためなのです。 |
症例イメージ:32歳・妊娠26週のAさん
ここで、当院の外来でよくお会いするような患者さんのイメージをご紹介します(実在の方ではなく、架空の症例です)。
Aさん(32歳・会社員)は第一子を妊娠中。妊娠前のBMIは24で、お母さまが2型糖尿病の治療中です。妊娠26週の妊婦健診で50gGCTが155mg/dLと陽性になり、75gOGTTを受けたところ、空腹時88mg/dL・1時間値185mg/dL・2時間値148mg/dLという結果でした。1時間値が基準(180mg/dL以上)に当てはまるため、妊娠糖尿病と診断されました。Aさんは「食生活には気をつけていたのに…」と落ち込まれていましたが、家族歴などの体質が背景にあること、管理すれば赤ちゃんへの影響は最小限にできることをご説明すると、前向きに取り組んでくださるようになりました。
赤ちゃんとお母さんへの影響
妊娠糖尿病を放置して高血糖が続くと、ブドウ糖は胎盤を通って赤ちゃんに多く運ばれ、さまざまな影響が出ることがあります。ただし、繰り返しになりますが、適切に血糖を管理できれば、これらのリスクは大きく減らせます。過度に怖がらず、「知って備える」ことが大切です。
| 影響を受ける人 | 起こりうること |
|---|---|
| お母さん | 妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、難産(帝王切開率の上昇)など |
| お腹の赤ちゃん | 巨大児(4,000g以上)、心臓の肥大など |
| 生まれた直後の赤ちゃん | 新生児低血糖、黄疸(おうだん)、多血症など |
「赤ちゃんが大きく育つのは良いことでは?」と思われるかもしれませんが、高血糖による巨大児は、赤ちゃん自身がインスリンを過剰に分泌して脂肪をため込んだ状態です。出産のトラブルや生後の低血糖につながりやすいため、やはり血糖は適正な範囲に保つことが赤ちゃんへの何よりの贈り物になります。
治療の基本——食事の工夫と、必要なときのインスリン
治療の柱①:食事療法(分食という工夫)
妊娠糖尿病の治療の基本は食事療法です。ただし、妊娠中は赤ちゃんの成長のためにしっかり栄養をとる必要があり、極端なカロリー制限や糖質制限は行いません。ポイントは「量を減らす」のではなく「分けて食べる」ことです。
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ポイント|食後の血糖上昇をおさえる食べ方 ① 分食:1日3食を4〜6回に分け、1回あたりの糖質量を減らして食後血糖の山を低くします ② 食べる順番:野菜・たんぱく質から先に、ごはんは最後に(ベジファースト) ③ ゆっくりよく噛む:早食いは食後血糖を急上昇させます ④ 栄養バランス:赤ちゃんに必要なエネルギー・たんぱく質・鉄・葉酸はしっかり確保します |
治療の柱②:血糖自己測定(SMBG)
指先からの少量の採血で血糖を自分で測る血糖自己測定(SMBG)を行い、食事の工夫がうまくいっているかを確認します。『妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル 第4版』(2025年)では、妊娠中の血糖管理の目安として朝食前血糖95mg/dL未満、食後1時間値140mg/dL未満または食後2時間値120mg/dL未満が示されています。
治療の柱③:必要なときはインスリン
食事療法だけで目標に届かない場合は、インスリン注射を併用します。ここで大切なことを2つお伝えします。
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インスリンについて知っておいていただきたいこと ・妊娠中は、ふだん使われる飲み薬(経口血糖降下薬)は原則として使用せず、安全性の確立したインスリンで治療します。インスリンは胎盤をほとんど通過しないため、赤ちゃんに直接作用する心配はありません。 ・インスリンが必要になるのは「食事療法を頑張らなかったから」ではありません。妊娠が進むほどインスリンが効きにくくなるのは自然な変化であり、出産して胎盤が出れば、多くの方はインスリンが不要になります。 |
出産後こそ大切——将来の糖尿病を防ぐフォローアップ
妊娠糖尿病の血糖上昇は、出産して胎盤が出るとほとんどの方で速やかに改善します。しかし、ここで安心して終わりにしてしまうのは、実はとてももったいないのです。
妊娠糖尿病を経験した方は、いわば「血糖が上がりやすい体質」を持っていることが妊娠を機にわかった方です。日本産科婦人科学会によると、妊娠糖尿病になった方は、ならなかった方に比べて将来2型糖尿病を発症するリスクが約7倍と報告されています。
症例イメージ:36歳・産後3年のBさん
Bさん(36歳・二児の母)は、第二子の妊娠中に妊娠糖尿病と診断されましたが、出産後は育児に追われて受診が途絶えていました(こちらも架空の症例です)。産後3年の職場健診でHbA1c 6.3%・空腹時血糖118mg/dLを指摘され、当院を受診。75gOGTTの結果は「境界型」で、幸い糖尿病には至っていませんでした。現在は食事・運動療法と年1回の検査で経過をみています。「妊娠糖尿病の既往」を伝えてくださったことで、糖尿病になる前の段階で対策を始められた好例です。
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出産後のフォローアップ(妊娠糖尿病だった方へ) □ 産後6〜12週を目安に75gOGTTで血糖の再評価を受ける □ その後も定期的(1〜3年ごと)に血糖・HbA1cのチェックを続ける □ 授乳は無理のない範囲で——母乳育児はお母さんの将来の糖尿病リスクを下げることが報告されています □ 次の妊娠を考えるときは、妊娠前に血糖チェックを(次回妊娠でも妊娠糖尿病になりやすいため) □ 健診や受診の際は「妊娠糖尿病の既往あり」と必ず伝える |
当院でできること——内科×小児科で親子を一緒にサポート
竹内内科小児科医院は、田園調布で内科と小児科を同じ医師が診療している医院です。妊娠糖尿病を経験されたお母さんの産後の血糖フォロー(75gOGTT・HbA1c測定に対応)と、お子さんの健診・予防接種・体調不良の診療を、同じ院で、親子一緒に受けていただけます。「子どもの受診のついでに自分の血糖チェックも」という通い方は、育児中のお母さんにこそおすすめです。土曜午前も診療しておりますので、平日お忙しい方もご相談ください。
管理栄養士による栄養相談にも対応しており、分食の具体的な献立の工夫など、日々の食事の悩みを一緒に考えてまいります。また、より専門的な糖尿病診療(CGM=持続血糖測定を活用した個別化治療など)が必要な場合は、姉妹院の五良会クリニック白金高輪と連携してご対応いたします。
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受診前チェックリスト(当てはまる方はご相談ください) □ 妊婦健診で「血糖が高め」「50gGCT陽性」と言われた □ 妊娠糖尿病と診断され、食事の工夫について相談したい □ 出産後、血糖の再検査(75gOGTT)をまだ受けていない □ 過去の妊娠で妊娠糖尿病と言われ、次の妊娠を考えている □ ご家族に糖尿病の方がいて、妊娠中の血糖が心配 |
妊娠糖尿病は、正しく知って管理すれば決して怖い病気ではありません。そして、妊娠を機にご自身の体質を知ることができた——将来の健康づくりのスタートラインに立てた、ともいえます。ご不安なことがあれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南が連携し、妊娠糖尿病の産後フォローから専門的な糖尿病診療、ご家族世代の糖尿病管理まで多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本糖尿病・妊娠学会「妊娠中の糖代謝異常と診断基準(2015年8月1日改訂)」(2026年9月閲覧)
- 日本糖尿病・妊娠学会 編『妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル 第4版』メジカルビュー社, 2025年3月刊行.
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病治療ガイド2024』文光堂, 2024.
- 日本産科婦人科学会「妊娠糖尿病」(市民向け解説ページ)https://www.jsog.or.jp/citizen/5706/(2026年9月閲覧)
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医