皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
厳しい残暑もようやく峠を越え、朝晩には秋の気配を感じられるようになってきました。「涼しくなったら運動を始めよう」と思っていた方にとって、これからの季節はまさに絶好のスタート時期です。一方で、外来では「ウォーキングはしているのに、血糖値や体重がなかなか変わらない」「年齢とともに足腰が細くなってきた気がする」というご相談も増えています。
実は、血糖値や血圧のコントロールを考えるうえで見逃せないのが「筋肉」の存在です。筋肉は、食事でとった糖を取り込んで蓄える、体の中で最大の「血糖の貯蔵庫」。筋肉が減ると、同じ食事・同じ生活でも血糖値が上がりやすい体になってしまいます。今回は、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」と日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」に基づき、秋から始める「貯筋(ちょきん)」——筋力トレーニング(レジスタンス運動)の効果と、ご自宅で安全にできる方法をお伝えいたします。
目次
筋肉は体で最大の「血糖の貯蔵庫」
食事でとった糖(ブドウ糖)は、血液に入ったあと、インスリンというホルモンの働きで全身の細胞に取り込まれます。このとき、糖の取り込み先として最も大きな割合を占めるのが骨格筋(筋肉)です。食後に血液中へ入った糖の多くは筋肉に取り込まれ、グリコーゲンとして蓄えられます。
つまり、筋肉がしっかりある方は「血糖の受け皿」が大きく、食後の血糖値が上がりにくい。逆に筋肉が減ると、受け皿が小さくなり、同じ食事でも血糖値が上がりやすくなるのです。「食事は変わっていないのに、年々血糖値が上がってきた」という背景には、加齢による筋肉量の減少が関わっていることが少なくありません。
メカニズム図解|筋肉が減ると血糖値が上がりやすくなる仕組み
| 加齢・運動不足で筋肉量が減少:筋肉量は一般に中年期以降、少しずつ減っていきます | |
| 糖の「受け皿」が小さくなる:食後の糖を取り込む場所が減り、血液中に糖が余りやすくなります | |
| インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性):筋肉が減り内臓脂肪が増えると、インスリンが効きにくい体質へ傾きます | |
| 血糖値・血圧・脂質の悪化へ:食後高血糖や血糖値スパイクが起こりやすくなり、糖尿病・高血圧・脂質異常症のリスクが高まります |
うれしいことに、この流れは逆向きにも働きます。筋力トレーニングで筋肉を維持・増強すれば、糖の受け皿が保たれ、さらに運動そのものがインスリンとは別のルートで筋肉への糖の取り込みを促すことが知られています。だからこそ、貯金ならぬ「貯筋」が生活習慣病対策のカギになるのです。
年1%ずつ減っていく筋肉——「サルコペニア肥満」にご注意を
筋肉量は、何もしなければおおむね40歳前後から徐々に減少し、高齢期には減少のスピードが加速するとされています。加齢に伴って筋肉量と筋力が低下した状態は「サルコペニア」と呼ばれ、アジアのワーキンググループによる診断基準(AWGS2019)では、握力や歩行速度、筋肉量などから評価します。
特に注意したいのが、筋肉が減る一方で内臓脂肪が増える「サルコペニア肥満」です。体重やBMI(体格指数)は普通でも、中身は「筋肉が少なく脂肪が多い」状態で、血糖値・血圧・脂質の異常や転倒・フレイル(心身の虚弱)につながりやすいことが指摘されています。体重計の数字だけでは気づきにくいのが怖いところです。
ご自宅でできる簡単チェック「指輪っかテスト」
両手の親指と人差し指で輪をつくり、利き足でない側のふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。指の輪よりふくらはぎが太くて「囲めない」方は筋肉量が保たれている可能性が高く、すき間ができるほど細い方はサルコペニアのリスクが高いことが報告されています。あくまで目安ですが、ご家族みんなで試せる簡単なチェックです。
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こんなサインはありませんか? ・ペットボトルのふたが開けにくくなった(握力の低下) ・横断歩道を青信号のうちに渡りきるのが大変になった(歩行速度の低下) ・椅子から立ち上がるとき、手をつくようになった ・体重は変わらないのに、ズボンのウエストだけきつくなった(内臓脂肪の増加) |
国のガイドも推奨——筋トレは「週2〜3回」
「筋トレ」と聞くと、ジムでのハードなトレーニングを思い浮かべる方が多いのですが、国の指針が推奨しているのは、もっと身近な運動です。厚生労働省が約10年ぶりに改訂した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月策定)では、成人・高齢者ともに筋力トレーニングを週2〜3日行うことが新たに明記されました。自分の体重を使ったスクワットや腕立て伏せも、立派な筋力トレーニングに含まれます。
| 対象 | 身体活動・運動ガイド2023の推奨(1日あたり) | 筋力トレーニング |
|---|---|---|
| 成人 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(約8,000歩以上) | 週2〜3日 |
| 高齢者 | 1日40分以上の身体活動(約6,000歩以上)+多要素な運動を週3日以上 | 週2〜3日 |
同ガイドの科学的根拠となった研究の解析では、筋力トレーニングを行っている人は、行っていない人に比べて総死亡・心血管疾患・がん・糖尿病のリスクが約10〜17%低いことが報告されています。また、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」でも、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)はいずれも血糖コントロールの改善に有効で、両方を組み合わせるとより効果的とされています。高血圧の分野でも、日本高血圧学会の最新ガイドライン(JSH2025)は運動療法を降圧の柱の一つとして位置づけています。
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ポイント|「ウォーキング+筋トレ」が最強の組み合わせ ① 有酸素運動(ウォーキングなど):脂肪を燃やし、血糖・血圧・脂質を改善します ② 筋力トレーニング(週2〜3日):糖の受け皿である筋肉を守り、基礎代謝を保ちます ③ やりすぎは逆効果も:筋トレは毎日行う必要はありません。筋肉の回復のため、同じ部位は2〜3日空けて行うのが目安です |
自宅でできる「貯筋」メニュー——スクワットとかかと上げから
特別な器具は必要ありません。当院が患者さまにまずおすすめしているのは、次の3つです。いずれも「ややきつい」と感じる程度を目安に、無理のない回数から始めてください。
| 種目 | やり方 | 目安 |
|---|---|---|
| 椅子スクワット (太もも・お尻) |
椅子の前に立ち、お尻を後ろに引きながらゆっくり腰を下ろし、座面に触れる直前で立ち上がる。膝がつま先より前に出すぎないように | 10回×2〜3セット 週2〜3日 |
| かかと上げ (ふくらはぎ) |
椅子の背や壁に手を添えて立ち、かかとをゆっくり上げ下げする。歯みがき中の「ながら運動」にも最適 | 10〜20回×2セット 週2〜3日 |
| 壁腕立て伏せ (胸・腕) |
壁に手をついて立ち、肘を曲げて胸を壁に近づけ、押し戻す。膝つき腕立て伏せにステップアップも可 | 10回×2セット 週2〜3日 |
「まとまった時間が取れない」という方は、まず座っている時間を30分に一度立ち上がって中断することから始めても構いません。テレビのCM中にかかと上げをする、電話は立って受ける——そんな小さな積み重ねが、立派な「貯筋」の第一歩になります。
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重要|筋トレ中の「いきみ」にご注意ください ・力を入れるときに息を止める(いきむ)と血圧が急上昇します。「力を入れるときに息を吐く」を守りましょう ・高血圧・心臓病のある方は、重いおもりを使う高強度の筋トレは避け、自分の体重を使った軽めの運動から始めてください ・運動中に胸の痛み・強い息切れ・めまいが出た場合は、すぐに中止して医療機関にご相談ください |
筋肉を育てる食事——たんぱく質のとり方
運動と並ぶ「貯筋」のもう一つの柱が、材料となるたんぱく質です。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、高齢期のフレイル・サルコペニア予防の観点から、たんぱく質を十分にとることの重要性が示されています。
コツは、朝・昼・夕の3食に分けて、手のひら1枚分程度の主菜(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品)をとること。特に朝食はパンやごはんだけで済ませてたんぱく質が不足しがちです。卵1個、納豆1パック、牛乳やヨーグルトを足すだけでも変わります。運動後の食事でたんぱく質をとると、筋肉の合成に効率よく使われるとされています。
ただし、腎臓の機能が低下している方(慢性腎臓病=CKDなど)では、たんぱく質のとりすぎがかえって負担になる場合があります。健診でeGFR(腎機能の指標)の低下を指摘されたことがある方は、自己判断でプロテインなどを増やす前に、必ず主治医にご相談ください。当院では管理栄養士による栄養相談も行っております。
運動を始める前に受診をおすすめする方
運動は「くすり」にたとえられるほど効果が期待できる一方、始め方を誤るとリスクにもなります。次に当てはまる方は、運動を本格的に始める前に一度ご相談ください。
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事前のメディカルチェックをおすすめする方 ・健診で血糖値(HbA1c)・血圧・コレステロール・心電図の異常を指摘されたまま放置している方 ・糖尿病で治療中の方(薬の種類によっては運動中の低血糖対策が必要です。網膜症・腎症・足病変がある方は運動の種類に調整が必要な場合があります) ・胸痛・動悸・強い息切れなど、心臓の症状を感じたことがある方 ・膝や腰に痛みがある方(無理なスクワットはかえって悪化のもとです) |
当院は内科・糖尿病内科・代謝内科として、血液検査・心電図などで運動を安全に始められる状態かを確認し、お一人おひとりの検査値・体力・生活に合わせた運動療法・食事療法をご提案しています。土曜午前も診療しておりますので、平日お忙しい働き盛りの方もご相談いただけます。ご高齢のご家族の筋力低下が心配な場合の受診や、通院が難しい方への訪問診療についてもお気軽にお問い合わせください。
当院でのサポート——受診前チェックリスト
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受診前チェックリスト □ 直近の健康診断・人間ドックの結果(血糖・血圧・脂質・腎機能の項目) □ 服用中のお薬(お薬手帳) □ 現在の運動習慣(種類・頻度・時間)のメモ □ 気になる症状(膝・腰の痛み、動悸、息切れなど) □ 「指輪っかテスト」の結果や、ペットボトルのふたが開けにくいなどのサイン |
「涼しくなったら」と思っているうちに、秋はあっという間に過ぎてしまいます。過ごしやすいこの季節こそ、無理なく運動習慣を身につける絶好のチャンスです。田園調布・多摩川エリアの皆さまの「貯筋」を、当院がしっかりサポートいたします。
健診結果の放置、運動の始め方のお悩み、ご相談ください
血液検査・心電図によるメディカルチェックから、糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療、管理栄養士による栄養相談まで。土曜午前も診療しています。
ご予約・お問い合わせ:03-3721-5222(下記の予約ボタンもご利用いただけます)
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南の医師が連携し、生活習慣病の予防から治療、高齢者のフレイル対策までを多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月策定(2026年8月閲覧)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』情報シート:筋力トレーニングについて」(2026年8月閲覧)
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024.
- 日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』2025.
- Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment (AWGS2019). J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.
- Momma H, et al. Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2022;56(13):755-763.
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(2026年8月閲覧)
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医