皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
朝晩はすっかり涼しくなり、田園調布周辺でも健康診断の結果を手に受診される方が増える季節になりました。糖尿病の外来で毎回のように登場する検査値といえば、やはりHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)です。「今月は6.8%でしたね」「7%を切りましたよ」と、通院中の方には“通信簿”のようにおなじみの数字だと思います。
ところが、外来ではときどきこんなことが起こります。「HbA1cは良い値なのに、血糖値を測ると意外に高い」「貧血の治療を始めたら、HbA1cが急に変わった」——実は、HbA1cには実際の血糖状態と“ズレて”表示されてしまう場面があるのです。今回は、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」および「糖尿病治療ガイド2024」の内容をもとに、HbA1cの落とし穴と、それを補うグリコアルブミン・1,5-AG・Cペプチドといった検査について、院長がやさしく解説いたします。
「そもそもHbA1cって何?」「糖尿病の診断基準を知りたい」という方は、先日の記事「健診で「血糖値・HbA1cが高め」と言われたら」も併せてご覧ください。
目次
HbA1cは「過去1〜2か月の血糖の平均点」
血糖値はそのとき測った「瞬間の値」であるのに対し、HbA1cは過去1〜2か月間の血糖の平均的な高さを反映する検査です。食事や運動の影響で1日の中でも大きく変動する血糖値と違い、HbA1cは直前の食事に左右されないため、糖尿病の診断にも治療の評価にも使われる、いわば血糖管理の「主役」の検査です。
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用語解説|HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)とは 赤血球の中で酸素を運ぶたんぱく質「ヘモグロビン」に、血液中のブドウ糖が結びついたもの(糖化ヘモグロビン)の割合を%で表した値です。 血糖が高い状態が続くほどブドウ糖がヘモグロビンに多く結びつくため、HbA1cは高くなります。赤血球の寿命(約120日)の前半の影響を強く受けるため、およそ過去1〜2か月の平均血糖を反映します。 |
ここで大切なのは、HbA1cが「赤血球のヘモグロビン」を利用した検査だという点です。つまり、赤血球そのものの状態が変わると、血糖とは無関係にHbA1cの値も変わってしまうのです。これが今回のテーマである“落とし穴”の正体です。
メカニズム図解|赤血球の寿命とHbA1cの関係
| 血液中のブドウ糖がヘモグロビンに結合:血糖が高いほど、結びつく量が増えます(糖化) | |
| 赤血球は約120日かけて入れ替わる:生きている間、糖化はどんどん蓄積していきます | |
| 糖化した割合=HbA1c:過去1〜2か月の血糖の高さを映す“平均点”になります | |
| だから赤血球の寿命が変わるとズレる:赤血球が早く壊れたり若い赤血球が急に増えたりすると、糖化が蓄積する前に測ることになり、血糖が高くてもHbA1cは低く出てしまいます |
HbA1cが実態と“ズレる”のはどんなとき?
糖尿病診療ガイドライン2024でも、HbA1cが平均血糖を正しく反映しない病態があることが示されています。代表的なものを表にまとめました。
| ズレ方 | 代表的な状態・理由 |
|---|---|
| 実際より低く出る | ・溶血性貧血(赤血球が早く壊れる) ・出血の後や、鉄欠乏性貧血の治療中(鉄剤で若い赤血球が急に増える) ・腎性貧血でエリスロポエチン製剤を使用中 ・肝硬変、透析中の方 ・妊娠中期以降(血液が薄まり赤血球の入れ替わりが早くなる) |
| 実際より高く出る | ・治療前の鉄欠乏状態(赤血球の寿命が延び、糖化が蓄積しやすくなる) ・ビタミンB12や葉酸の欠乏 など |
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用語解説|溶血(ようけつ)・エリスロポエチンとは ① 溶血:赤血球が寿命(約120日)よりも早く壊れてしまうことです。溶血が起こる貧血(溶血性貧血)では、糖化が蓄積する前の“若い赤血球”ばかりになるため、HbA1cは実際の血糖より低く出ます。 ② エリスロポエチン:腎臓でつくられる「赤血球を増やすホルモン」です。慢性腎臓病で不足すると腎性貧血になり、注射薬(エリスロポエチン製剤)で補います。この治療中も若い赤血球が増えるため、HbA1cは低めに出やすくなります。 |
ポイントは、これらの状態では「HbA1cが良く見えているだけ」で、体は高血糖のダメージをそのまま受けているということです。見かけの数字に安心してしまうと、知らないうちに合併症が進んでしまう恐れがあります。だからこそ私たち内科医は、貧血や腎臓病、肝臓病をお持ちの方の血糖管理では、HbA1cを鵜呑みにせず他の検査と組み合わせて判断しています。
外来でよくある2つのケース(架空症例)
イメージしやすいように、当院の外来でよく出会う患者さんの傾向をもとにした架空の症例を2つご紹介します(実在の患者さんの診療情報ではありません)。
ケース1:貧血の治療を始めたらHbA1cが“急に下がった”58歳女性
健診で血糖高めを指摘されて通院中の会社員の方。もともとHbA1cは7.2%前後でしたが、月経過多による鉄欠乏性貧血が見つかり鉄剤を開始したところ、2か月後のHbA1cが6.4%に。「頑張った成果ですね!」と喜ばれたのですが、食後の血糖値は190mg/dL前後と以前と変わっていませんでした。これは血糖が改善したのではなく、鉄剤で若い赤血球が一気に増えたことでHbA1cが見かけ上低く出た典型例です。このような時期は、後述するグリコアルブミンを併用して本当の血糖状態を確認します。
ケース2:慢性腎臓病でHbA1cは6.1%、でも実は高血糖だった72歳男性
糖尿病歴15年、慢性腎臓病(CKD)が進行し、腎性貧血に対してエリスロポエチン製剤の注射を受けている方。HbA1cは6.1%と一見優秀ですが、持続血糖モニター(CGM)を装着してみると、食後は220mg/dLを超える高血糖が連日続いていました。エリスロポエチン製剤の影響でHbA1cが低めに出ていたのです。腎症の進行を防ぐためにも、こうした方ではHbA1cだけに頼らない評価が欠かせません。
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こんな方はHbA1cの“ズレ”にご注意ください ・貧血を指摘されている方、鉄剤やビタミン剤で貧血治療中の方 ・慢性腎臓病・透析中・エリスロポエチン製剤を使用中の方 ・肝硬変など肝臓の病気をお持ちの方 ・妊娠中の方(妊娠糖尿病の管理ではグリコアルブミンが用いられます) |
もう一つの物差し:グリコアルブミン・1,5-AG・Cペプチド
HbA1cが頼れない場面で活躍する“もう一つの物差し”が、次の検査たちです。いずれも通常の採血で調べることができます。
| 検査 | 反映する期間・内容 | こんなときに有用 |
|---|---|---|
| グリコアルブミン(GA) | 過去約2週間の平均血糖(基準値の目安:11〜16%) | 貧血・透析などでHbA1cが当てにならないとき、妊娠糖尿病、治療変更後の効果を早く知りたいとき |
| 1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール) | 直近数日の尿糖の出方(食後高血糖に敏感で、血糖が高いほど低下する) | HbA1cは悪くないのに食後だけ血糖が上がる「かくれ高血糖」を捉えたいとき |
| Cペプチド | 血糖の平均ではなく、ご自身の膵臓がインスリンを出す力(インスリン分泌能) | お薬の選択やインスリン療法を検討するとき、1型と2型の見極めの参考 |
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用語解説|グリコアルブミン(GA)・Cペプチドとは ① グリコアルブミン:血液中のたんぱく質「アルブミン」にブドウ糖が結びついた割合です。アルブミンの寿命は赤血球より短い(約2〜3週間)ため、過去約2週間の血糖を反映し、赤血球の状態に影響されません。ただしネフローゼ症候群や甲状腺の病気ではズレることがあります。 ② Cペプチド:膵臓がインスリンをつくる際に、インスリンと1対1で切り出される“製造証明書”のような物質です。血液や尿中のCペプチドを測ることで、ご自身のインスリン分泌能を推定できます。 |
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注意|SGLT2阻害薬を飲んでいる方の1,5-AG SGLT2阻害薬(尿に糖を出すタイプの糖尿病治療薬)を服用中の方は、お薬の作用で常に尿糖が出るため、1,5-AGは血糖の状態にかかわらず低値になり、指標として使えません。該当する方の血糖評価には、血糖自己測定や持続血糖モニター(CGM)、グリコアルブミンなどを用います。お薬の種類については「糖尿病のお薬はどう選ばれる?」の記事をご覧ください。 |
また、検査室の数字だけでなく、FreeStyleリブレなどの持続血糖モニター(CGM)で血糖の動きを“見える化”することも、HbA1cのズレを補う強力な手段です。詳しくは「血糖値を“見える化”する時代へ」で解説しています。
あらためて確認:血糖コントロール目標
最後に、HbA1cを「正しく読める」前提で、成人の血糖コントロール目標(糖尿病治療ガイド2024)をおさらいしておきましょう。
| 目標 | HbA1c | どんな方が対象? |
|---|---|---|
| 血糖正常化を目指す際の目標 | 6.0%未満 | 食事・運動療法だけで達成可能な方、低血糖なく達成できる方 |
| 合併症予防のための目標 | 7.0%未満 | 多くの方の基本目標(対応する目安:空腹時血糖130mg/dL未満、食後2時間血糖180mg/dL未満) |
| 治療強化が困難な際の目標 | 8.0%未満 | 低血糖などの副作用やその他の理由で治療の強化が難しい方 |
なお、ご高齢の方では認知機能やお薬の内容によって目標値が変わり、「下げすぎ」がかえって危険になることもあります。詳しくは「高齢者の糖尿病は「下げすぎ」にもご注意を」をご覧ください。
当院でできること(田園調布・多摩川)
竹内内科小児科医院では、HbA1cはもちろん、必要に応じてグリコアルブミンやCペプチドなどの検査を組み合わせ、貧血・腎臓・肝臓の状態まで含めて血糖管理を評価しています。健診で「血糖値が高め」と言われた方の精密検査から、通院中の方の治療の見直し、FreeStyleリブレ(CGM)を活用した血糖の見える化まで、糖尿病内科・代謝内科として幅広く対応いたします。
内科と小児科を併設しておりますので、「自分の糖尿病の相談のついでに、子どもの体調も診てほしい」といったご家族での受診も可能です。土曜午前も診療しておりますので、平日お忙しい会社員の方もぜひご利用ください。
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受診前チェックリスト □ 健診結果や過去の血液検査の結果(HbA1c・血糖値の推移がわかるもの) □ 貧血・腎臓病・肝臓病の指摘や治療歴(鉄剤・エリスロポエチン製剤の使用など) □ 服用中のお薬・お薬手帳(SGLT2阻害薬の有無もわかります) □ ご自宅で血糖測定をしている方は、その記録やアプリの画面 |
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪が連携し、糖尿病の検査・治療を多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病治療ガイド2024』文光堂, 2024.
- 日本糖尿病学会・日本糖尿病協会 編『糖尿病治療の手びき2026(改訂第59版)』南江堂, 2026.
- 日本糖尿病学会「熊本宣言2013」(合併症予防のための目標HbA1c 7%未満), 2013.
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「HbA1cは良いはずなのに…」と思ったら、一度ご相談ください 貧血・腎臓病・肝臓病をお持ちの方の血糖管理、健診結果の見方、グリコアルブミンなどの検査のご相談は、竹内内科小児科医院(東急東横線・目黒線 多摩川駅 徒歩5分)へどうぞ。土曜午前も診療しております。 ご予約は下記のWEB予約・WEB問診・LINE・お電話(03-3721-5222)からお気軽にお取りいただけます。 |
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医