【2026年秋】血糖値の「上がりすぎ」も緊急事態です|糖尿病ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態のサインとシックデイの休薬ルールを院長が解説【田園調布・多摩川】

皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。

朝晩はすっかり秋らしくなりましたが、今シーズンはインフルエンザの流行が例年より早く始まっており、当院の外来でも発熱で受診される方が増えてまいりました。糖尿病の治療中の方にとって、発熱や胃腸炎で「食事がとれない日」は、実は血糖値が大きく乱れる要注意のタイミングです。

先日の記事では、血糖値が下がりすぎる「低血糖」の対処法をご紹介しました。今回はその逆、血糖値が上がりすぎたときに起こる緊急事態――「糖尿病ケトアシドーシス(DKA)」と「高浸透圧高血糖状態(HHS)」について、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」や「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2022年7月26日改訂)」をもとに、危険なサインの見分け方と、体調不良の日(シックデイ)のお薬の正しい休み方を、田園調布・多摩川エリアの皆さまに向けてやさしく解説いたします。

「高血糖の緊急事態」は2種類あります

糖尿病の急な悪化と聞くと「低血糖」を思い浮かべる方が多いのですが、実は血糖値が上がりすぎる方向にも、命に関わる緊急事態があります。代表的なものが次の2つです。

  糖尿病ケトアシドーシス(DKA) 高浸透圧高血糖状態(HHS)
起こりやすい方 1型糖尿病の方、インスリン注射を中断した方、SGLT2阻害薬服用中の方など(2型でも起こります) 2型糖尿病のご高齢の方に多い
主なきっかけ インスリンの中断、感染症、清涼飲料水の飲みすぎ など 感染症、脱水、利尿薬・ステロイドなどの薬剤、手術 など
血糖値の目安 おおむね250〜300mg/dL以上(SGLT2阻害薬服用中は正常に近い値でも起こりえます 600mg/dL以上の著しい高血糖
特徴的な症状 のどの渇き、吐き気・嘔吐、腹痛、深く大きな呼吸、果物のような甘酸っぱい口臭 強い脱水、ぼんやりする・反応が鈍いなどの意識障害、けいれん
進み方 数時間〜数日と比較的急速 数日〜数週間かけてじわじわと

どちらも入院での治療(点滴・インスリン投与など)が必要になる病態で、対応が遅れると命に関わります。大切なのは、「そうなる前のサイン」に気づくことと、体調不良の日(シックデイ)の正しい過ごし方を知っておくことです。

なぜ起こる?メカニズムをやさしく図解

ケトアシドーシスは、「インスリンが足りない状態」で体がエネルギー源をブドウ糖から脂肪に切り替えてしまうことから始まります。

メカニズム図解|ケトアシドーシスが起こるまで

1 インスリンが足りなくなる:注射の中断、感染症などの強いストレス、極端な食事量の低下などがきっかけになります。
2 ブドウ糖が細胞に入れない:血液中に糖はあふれているのに、細胞は「エネルギー不足」の状態になります。
3 脂肪を分解して「ケトン体」を作る:体は非常用エネルギーとして脂肪を燃やし始め、その燃えかすとして酸性の物質「ケトン体」が増えていきます。
4 血液が酸性に傾く(アシドーシス):吐き気・腹痛・深い呼吸・意識障害が現れ、治療が遅れると命に関わります。

一方、高浸透圧高血糖状態(HHS)は、著しい高血糖によって尿の量が増え、体から水分がどんどん失われて濃縮されていくことが主な原因です。のどの渇きを感じにくいご高齢の方では、気づかないうちに脱水が進み、ある日「ぼんやりして呼びかけに反応しない」という形で見つかることが少なくありません。

こんな症状はすぐに受診・救急要請を

重要|高血糖緊急症を疑うサイン

・のどの異常な渇き、水を飲んでも追いつかない、尿の量・回数が急に増えた

・吐き気・嘔吐・腹痛が続き、水分もとれない

・強いだるさ、急な体重減少

・呼吸が深く速い、吐く息が果物のように甘酸っぱい

・ぼんやりする、反応が鈍い、意識がもうろうとしている(ためらわず救急要請を

とくに「嘔吐が続いて水分がとれない」「意識の様子がおかしい」という段階では、ご自宅で様子を見るのは危険です。診療時間内であれば当院(TEL 03-3721-5222)にご連絡いただき、夜間や意識障害があるときは救急要請(119番)をためらわないでください。

外来でよく出会う2つのケース(架空の症例)

イメージしていただきやすいように、当院のような地域のクリニックの外来でよく出会う典型例を2つご紹介します。いずれも実在の患者さんではなく、複数の典型的な経過をもとにした架空の事例です。

ケース1|75歳女性・おひとり暮らし「風邪のあと、ぼんやりして」

2型糖尿病で飲み薬を服用中のAさん(架空)。発熱と食欲低下が3日ほど続き、「食べていないから」と水分もあまりとらずに寝て過ごしていました。心配して訪ねたご家族が、呼びかけへの反応が鈍いことに気づき救急搬送。血糖値は600mg/dLを大きく超え、高浸透圧高血糖状態(HHS)と診断されました。

ご高齢の方は、のどの渇きのセンサーが鈍くなるうえ、発熱時には思った以上に水分が失われます。「食べられないときこそ、水分だけはしっかり」が合言葉です。離れて暮らすご家族が、電話で「食べられている?」「お手洗いの回数は?」と確認するだけでも、早期発見につながります。

ケース2|52歳男性・会社員「血糖値は正常なのにケトアシドーシス?」

HbA1c 8.2%・BMI 27で、SGLT2阻害薬を服用中のBさん(架空)。週末に胃腸炎にかかり、食事をほとんど抜いた状態で「お薬は真面目に飲まなければ」といつも通りSGLT2阻害薬を服用し続けました。翌日から強いだるさと吐き気・腹痛が出現。受診時の血糖値は180mg/dL程度と高くなかったものの、血中ケトン体が著明に上昇しており、正常血糖ケトアシドーシスとして入院治療となりました。

「血糖値がそれほど高くないのにケトアシドーシスになる」――これはSGLT2阻害薬に特有の落とし穴で、日本糖尿病学会も繰り返し注意喚起を行っています(詳しくは後述します)。

シックデイルール|食べられない日のお薬と過ごし方

糖尿病の治療中に、発熱・下痢・嘔吐、または食欲不振で食事がとれない日のことを「シックデイ(sick day=体調の悪い日)」と呼びます。シックデイの過ごし方の基本は、次の5つです。

ポイント|シックデイの基本5か条

① 水分をこまめに:お茶やスープ、経口補水液などで、脱水を防ぎます(目安として1日1〜1.5L程度、心臓や腎臓の病気で水分制限のある方は主治医の指示に従ってください)。

② 糖質をゼロにしない:おかゆ、うどん、ゼリー、りんごジュースなど、消化のよい炭水化物を少しずつ。絶食はかえってケトン体を増やします。

③ お薬は「種類ごとのルール」で調整:自己判断での一律継続・一律中断はどちらも危険です(下の表をご覧ください)。

④ 血糖測定はいつもより多めに:自己測定をされている方は3〜4時間ごとを目安に。

⑤ 早めにかかりつけ医へ連絡:丸1日食事がとれない、嘔吐・下痢が半日以上続く、高血糖が続くときは、我慢せずご連絡ください。

お薬の種類別・シックデイの目安

お薬の種類 食事がとれないときの一般的な目安
SGLT2阻害薬(〜フロジン) 必ず休薬(ケトアシドーシス・脱水を防ぐため。学会Recommendationでも明記)
ビグアナイド薬(メトホルミン) 休薬が原則(脱水時は乳酸アシドーシスのリスク)
SU薬・グリニド薬 食事量に応じて減量・中止(低血糖予防のため、事前に主治医と相談を)
GLP-1受容体作動薬 嘔吐などで食事がとれない間はお休みを検討
インスリン注射 自己判断で中断しない(特に持効型。食べていなくても体は基礎のインスリンを必要としており、中断はケトアシドーシスの引き金になります)

上の表はあくまで一般的な目安です。同じお薬でも、1型か2型か、腎機能、併用薬によって対応は変わります。「自分のシックデイルール」を元気なうちに主治医と決めておくことが、いちばんの備えです。当院でも、糖尿病で通院中の方には診察の際にシックデイの過ごし方を個別にお伝えしていますので、お気軽にお尋ねください。

SGLT2阻害薬を服用中の方へ|「血糖値が正常」でも安心できない理由

SGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、スーグラなど)は、尿から糖を出すことで血糖を下げるお薬で、心臓や腎臓を守る効果も示されており、近年広く使われています。一方で、日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)では、次の点への注意が呼びかけられています。

SGLT2阻害薬服用中の3つの注意点

① シックデイは必ず休薬:発熱・下痢・嘔吐時や食事が十分とれないときは服用を中止し、かかりつけ医に相談を。手術が決まったときも事前に申し出てください(術前3日前からの休薬が目安とされています)。

② 「正常血糖ケトアシドーシス」に注意:血糖値がそれほど高くなくても、強いだるさ・吐き気・腹痛があればケトアシドーシスの可能性があります。極端な糖質制限との組み合わせもリスクを高めます。

③ 脱水を防ぐ:尿量が増えるお薬のため、シックデイや飲酒後、暑い時期は特に意識して水分補給を。

「調子が悪い日は、〜フロジンという名前のお薬はお休み」。SGLT2阻害薬を服用中の方は、ぜひこれだけでも覚えて帰っていただければと思います。お薬手帳に付せんを貼っておくのもおすすめです。

秋冬の感染症シーズンにできる予防

DKA・HHSの引き金として最も多いもののひとつが感染症です。今シーズンは例年より早くインフルエンザの流行が始まっており、糖尿病の方は重症化しやすいことが知られています。高血糖緊急症の予防は、日々の血糖管理と感染症対策の延長線上にあります。

秋冬に向けた予防チェックリスト

□ インフルエンザワクチンを毎年接種する(当院はWeb予約受付中です)

□ 自分の「シックデイルール」を主治医と確認してある

□ 経口補水液・ゼリー・おかゆなど「シックデイ用の備え」が自宅にある

□ 通院・お薬を自己判断で中断していない

□ 離れて暮らす高齢のご家族と、体調確認の連絡手段を決めてある

インフルエンザ対策とシックデイルールの詳細は、こちらの記事(糖尿病の方こそ「インフルエンザ対策」を)でも詳しくご紹介しています。

当院でのサポート

竹内内科小児科医院では、糖尿病内科・代謝内科の外来で、血糖コントロールの状態やお使いのお薬に合わせて、お一人おひとりのシックデイの過ごし方を一緒に確認しています。管理栄養士による栄養相談や、ご高齢の方・通院が難しい方への訪問診療にも対応しており、内科と小児科を併設しているため、お子さんの発熱受診のついでに親御さんの血糖のご相談といった「家族ぐるみ」の受診も可能です。土曜午前も診療しておりますので、平日お忙しい方もご利用ください。

受診前チェックリスト(シックデイのご相談時)

□ いつから、どんな症状か(発熱・嘔吐・下痢の回数など)

□ 直近の食事・水分がどのくらいとれているか

□ お薬手帳(服用中の糖尿病薬がわかるもの)

□ 自己測定している方は最近の血糖値の記録

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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院、港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南(医療法人社団正友会)の医師が連携しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で糖尿病の継続診療が受けられる体制を整えております。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂; 2024.
  2. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂; 2024.
  3. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療の手びき2026(改訂第59版). 南江堂; 2026.
  4. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」. 糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2022年7月26日改訂)
  5. 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」ほか関連情報(2026年9月閲覧)

血糖値のこと、お薬のこと、シックデイの備えのこと。「これくらいで受診していいのかな」と迷うことこそ、どうぞお気軽にご相談ください。田園調布・多摩川エリアの皆さまの「うちのかかりつけ」として、スタッフ一同お待ちしております。

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Author: 五藤 良将