【2026年秋】「インスリンは最後の手段」ではありません|インスリン療法の基礎・製剤の種類・始めどきと「痛い?太る?一生続く?」を院長がやさしく解説【田園調布・多摩川】

皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。

外来で糖尿病の診療をしていると、「先生、インスリンだけは勘弁してください」というお言葉を本当によくいただきます。「インスリンを打つようになったら終わり」「一度始めたら一生やめられない」——そんなイメージをお持ちの方が、田園調布の外来でも少なくありません。ですが、これらの多くは誤解です。むしろ、必要なタイミングでインスリンを上手に使うことで、ご自身の膵臓(すいぞう)を守り、その後の治療がぐっと楽になる方もいらっしゃいます。

今回のブログでは、日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』『糖尿病治療ガイド2024』に基づき、インスリン療法の基礎——そもそもインスリンとは何か、どんなときに始めるのか、製剤の種類と使い分け、そして「痛い?」「太る?」「一生続く?」といったよくあるご不安——を、できるだけやさしく解説いたします。

糖尿病のお薬全体の解説は、関連記事「糖尿病のお薬はどう選ばれる?|9系統の飲み薬と注射薬の特徴・使い分け」と合わせてご参考にしてください。

インスリンとは?——体の中で唯一、血糖を下げるホルモン

インスリンは、膵臓のβ細胞(べーたさいぼう)から分泌されるホルモンです。血糖値を上げるホルモンは複数ある一方で、血糖値を下げるホルモンは体の中でインスリンただ一つ。食事で上がった血糖(ブドウ糖)を筋肉や肝臓に取り込ませ、エネルギーとして使える形に変える「鍵」の役割をしています。

2型糖尿病では、この鍵が「作られにくくなる」(インスリン分泌低下)ことと、「鍵はあるのに鍵穴が錆びついて効きにくくなる」(インスリン抵抗性)ことの両方が、程度の差はあれ同時に起こっています。

メカニズム図解|インスリンが足りない・効かないと何が起こる?

1 食事をとると血糖値が上がる:ごはん・パン・果物などの糖質が消化され、ブドウ糖として血液中に入ります。
2 膵臓がインスリンを分泌:本来は血糖の上昇に合わせて素早くインスリンが出て、筋肉・肝臓へ糖を取り込ませます。
3 糖尿病では分泌が遅れ・不足し、効きも悪くなる:血液中にブドウ糖があふれ、高血糖が続きます。
4 高血糖そのものが膵臓をさらに疲れさせる(糖毒性):高血糖が続くと、β細胞はますますインスリンを出せなくなる悪循環に。ここを断ち切る手段の一つが、外からインスリンを補うことです。

つまりインスリン注射は、「足りなくなったものを外から補い、疲れた膵臓を休ませてあげる」治療です。決して「罰」でも「終わり」でもありません。

インスリン療法はどんなときに始める?——「絶対に必要な場合」と「使ったほうがよい場合」

『糖尿病治療ガイド2024』では、インスリン療法が必要となる場面を、大きく「絶対的適応」(インスリンなしでは危険な状態)と「相対的適応」(インスリンを使ったほうが良い結果が期待できる状態)に分けて整理しています。

区分 代表的な場面
絶対的適応
(必ずインスリンが必要)
・1型糖尿病などインスリン依存状態
・糖尿病ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態などの昏睡(こんすい)
・重い肝障害・腎障害を合併しているとき
・重症感染症、けが、中等度以上の手術の前後
・糖尿病合併妊娠(食事療法だけでは管理できない妊娠糖尿病を含む)
相対的適応
(使ったほうがよい)
・著明な高血糖(目安:空腹時250mg/dL以上、随時350mg/dL以上)
・飲み薬やGLP-1受容体作動薬などでは血糖コントロールが不十分なとき
・やせ型でインスリン分泌の低下が疑われるとき
・ステロイド治療中の高血糖
・高血糖による「糖毒性」を解除する目的の一時的な使用

ポイント|「一時的なインスリン」という選択肢

① 糖毒性の解除:血糖がかなり高い状態で見つかった場合、まずインスリンで血糖を下げて膵臓を休ませると、ご自身のインスリン分泌が回復してくることがあります。

② その後の離脱:状態が整えば、飲み薬へ切り替えてインスリンを卒業できる方も実際にいらっしゃいます(経過には個人差があります)。「始めたら一生」とは限りません。

インスリン製剤の種類——超速効型から「週1回」まで

インスリン製剤は、効き始めるまでの速さと効果の続く長さによって、大きく次のように分類されます。「食事のたびに出るインスリン(追加分泌)」を補うものと、「1日を通して少しずつ出ているインスリン(基礎分泌)」を補うものがある、と考えると分かりやすいです。

分類 補う役割 効き方の目安・打つタイミング
超速効型 追加分泌
(食後の血糖上昇を抑える)
数分〜20分ほどで効き始め、3〜5時間程度持続。食直前に注射(製剤により食事開始時〜直後も可)。
速効型 追加分泌 約30分で効き始め、5〜8時間程度持続。食事の約30分前に注射。
中間型 基礎分泌 ゆっくり効き始め、およそ半日〜1日持続。効果に山(ピーク)があります。
持効型溶解 基礎分泌 ピークがほぼなく、約24時間以上安定して持続。1日1回、決まった時間に注射。現在の基礎インスリンの主流です。
混合型・配合溶解 追加+基礎 追加分泌用と基礎分泌用をあらかじめ組み合わせた製剤。注射回数を減らしたい場合の選択肢です。
週1回持効型
(インスリン イコデク)
基礎分泌 週1回の注射で基礎インスリンを補う世界初の製剤(アウィクリ®)。日本では2024年6月24日に承認され、2025年1月30日に発売されました。適応や向き不向きがあり、使用は主治医とよく相談して決めます。

※効き始め・持続時間は製剤ごとに異なります。実際の使い方は、必ず処方時の説明と添付文書に従ってください。

治療の実際——多くは「1日1回」から始まります

「インスリン=1日に何回も注射」と思われがちですが、2型糖尿病の外来では、飲み薬を続けながら、持効型インスリンを1日1回だけ追加する方法(BOT:Basal supported Oral Therapy)から始めることが多くあります。夜寝る前や朝など、生活に合わせた時間に1回打つだけですので、お仕事をされている方でも続けやすい方法です。

段階に応じた治療のステップ

血糖の状態やライフスタイルに応じて、おおむね次のように調整していきます。

① BOT(基礎インスリン1日1回+飲み薬)② 基礎インスリン+食事の前の超速効型を1回追加③ 基礎・追加インスリン療法(強化インスリン療法):基礎1回+毎食前の超速効型で、健康な方のインスリン分泌パターンに最も近づける方法です。1型糖尿病の方では原則こちらが基本になります。

注射針は現在、太さ0.2mm前後・長さ4mmほどの非常に細く短いものが主流で、「思っていたよりずっと痛くなかった」とおっしゃる方が大半です。当院では、初めての方にも看護師と一緒に注射手技・保管方法・打つ場所のローテーションまで丁寧にご説明しています。

大切な注意|自己判断での中断・調整は危険です

・インスリンは自己判断で中止したり量を変えたりしないでください。特に1型糖尿病の方の中断は、命に関わるケトアシドーシスの原因になります。

・発熱・下痢・食欲不振で食事がとれない「シックデイ」の日も、基礎インスリンを勝手にやめないことが原則です。対応はあらかじめ主治医と決めておきましょう(シックデイルールの解説記事はこちら)。

外来でよく出会う2つのケース(架空の症例です)

イメージしていただきやすいよう、当院の外来でよくお会いするタイプの患者さんを想定した架空のケースを2つご紹介します(実在の患者さんの情報ではありません)。

ケース1|60代男性・会社員のAさん(HbA1c 8.2%・BMI 27)

健診で指摘されて数年、飲み薬2剤で治療中ですが、外食や接待が多くHbA1cは8%台が続いていました。「注射だけは避けたい」とおっしゃっていましたが、合併症のリスクをご説明し、飲み薬はそのままに、就寝前の持効型インスリンを1日1回追加するBOTを開始。ご自宅での血糖測定と外来での用量調整を重ね、数か月かけてHbA1cは7%前後まで改善しました。「週1回の通院でもないのに、注射がこんなに簡単だとは思わなかった」というのが、こうした患者さんからよく聞かれる感想です。

ケース2|50代女性・やせ型のBさん(HbA1c 9.8%・口渇と体重減少)

のどの渇き・トイレの回数増加・数か月で3kgの体重減少があり受診。血糖値は著明に高く、糖毒性でご自身のインスリン分泌が強く抑えられている状態と考えられました。まずインスリンで速やかに血糖を下げて膵臓を休ませ、分泌の回復を確認しながら、その後は飲み薬中心の治療へ切り替え——という経過をたどる方が多いパターンです。このように、インスリンを「短期集中」で使い、その後卒業する治療戦略もあります(経過には個人差があります)。

よくあるご不安Q&A——「痛い?」「太る?」「一生続く?」

Q1. 一度始めたら、一生やめられないのですか?

いいえ、必ずしもそうではありません。糖毒性の解除など一時的な使用で終わる方も、飲み薬へ移行できる方もいらっしゃいます。一方、1型糖尿病の方やインスリン分泌が大きく低下している方では継続が必要です。「やめられるかどうか」はご自身の膵臓の状態次第であり、早めに使い始めるほど膵臓の力を温存しやすい、という考え方が重要です。

Q2. 注射は痛くありませんか?

現在の注射針は髪の毛ほどの細さ・長さ4mm程度で、採血の針とは比べものにならないほど負担が少ないものです。個人差はありますが、「ほとんど感じない」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。

Q3. 低血糖が怖いのですが。

インスリン療法で最も注意すべき副作用が低血糖です。冷や汗・動悸・手のふるえなどのサインと、ブドウ糖のとり方をあらかじめ知っておけば、落ち着いて対処できます。当院では導入時に必ず低血糖対策をセットでご説明します。詳しくは「低血糖対処完全ガイド」をご覧ください。

Q4. 体重が増えると聞きました。

血糖コントロールが改善する過程で体重が増えることはあります。食事療法・運動療法を並行することと、体重が増えにくい飲み薬との組み合わせを工夫することで対応します。気になる場合は遠慮なくご相談ください。

エビデンス・ワンポイント

『糖尿病診療ガイドライン2024』(日本糖尿病学会)では、患者さんの病態・年齢・生活背景に応じて治療目標と薬剤を個別に設定することが推奨されています。インスリンも「最後の手段」ではなく、病態に応じて選択される治療手段の一つと位置づけられています。

受診前のチェックリスト・ご予約方法

「血糖値がかなり高いと言われた」「飲み薬を増やしても下がらない」「インスリンをすすめられたが迷っている」——そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。セカンドオピニオン的なご相談もお受けしています。

受診前チェックリスト

□ 健診結果・血液検査の結果(HbA1c・血糖値がわかるもの)

□ お薬手帳(現在服用中のお薬・注射薬)

□ ご自宅で測っている場合は血糖値・体重の記録

□ 生活リズム(勤務形態・食事時間)のメモ——治療法選びの大切な情報です

ご予約・ご相談はこちら

竹内内科小児科医院(東急東横線・目黒線 多摩川駅 徒歩5分)
TEL:03-3721-5222/診療時間:午前9:00〜12:00・午後15:30〜19:00(土曜は午前のみ・日祝休)

WEB予約・WEB問診・LINEからのご予約は、下のクリニック紹介のボタンをご利用ください。糖尿病内科・代謝内科の外来で、インスリン導入から日々の調整まで一貫して対応いたします。

医療法人社団五良会では、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪が連携し、糖尿病の診断からインスリン導入・継続管理までを多角的にサポートしております。

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五良会グループでは、田園調布から白金高輪まで医師が連携しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024.
  2. 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病治療ガイド2024』文光堂, 2024.
  3. ノボ ノルディスク ファーマ株式会社「アウィクリ®注フレックスタッチ®(インスリン イコデク)添付文書」(2026年9月閲覧)
  4. 糖尿病リソースガイド「世界初の週1回投与のインスリン製剤『アウィクリ』(インスリン イコデク)が日本で承認取得」 https://dm-rg.net/news/4bc5ee23-abb3-44f2-83dd-dd4020949347 (2026年9月閲覧)

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Author: 五藤 良将