皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
朝晩が少しずつ涼しくなり、2026年の夏もようやく終わりが見えてきました。この時期、診察室で「足の裏がジンジン・ピリピリする」「足の先の感覚がなんとなく鈍い気がする」といったご相談をいただくことがあります。素足やサンダルで過ごした夏が終わり、靴下や靴を履く機会が増える初秋は、ご自身の「足の感覚の変化」に気づきやすい季節でもあります。
実はこうした足のしびれや感覚の鈍さは、糖尿病の三大合併症のうち最も早く、最も高い頻度で現れる「糖尿病神経障害(糖尿病性神経障害)」のサインかもしれません。今回は、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」と、同学会が公開している「糖尿病性神経障害の評価・診断マニュアル」の内容をもとに、症状の特徴・診断の方法・今日からできる対策までを、患者さま目線でわかりやすく解説いたします。
前回の記事では三大合併症のひとつ「目」の合併症(糖尿病網膜症)を取り上げました。あわせてお読みいただくと、糖尿病の合併症の全体像がつかみやすくなります(糖尿病と「目」の合併症の記事はこちら)。
目次
糖尿病神経障害とは|三大合併症で最初に現れる「し・め・じ」の「し」
糖尿病の三大合併症は、覚え方として「し・め・じ」と呼ばれることがあります。「し」は神経障害、「め」は目(網膜症)、「じ」は腎症。この順番は、おおむね合併症が現れやすい順番ともいわれています。つまり神経障害は、三大合併症の中で最初に、そして最も高い頻度で現れる合併症なのです。
国内の大規模調査では、糖尿病の方のおよそ3人に1人に神経障害がみられたと報告されています。決してまれなものではなく、「糖尿病と言われたら、誰にでも起こりうる合併症」と考えていただくのがよいと思います。
やっかいなのは、初期にはごく軽い「しびれ」「違和感」程度で、「年のせいかな」「疲れかな」と見過ごされやすいことです。また、進行すると逆に感覚が鈍くなり、「痛みを感じにくくなる」ため、けがややけどに気づかず重症化する危険があります。
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ポイント|糖尿病神経障害の特徴 ① 最も早く現れる:三大合併症の中で最初に出やすく、糖尿病予備群の段階から始まることもあります ② 足の先から左右対称に:「靴下を履く範囲」のしびれ・ピリピリ感が典型的です ③ 進行すると感覚が鈍る:痛みに気づけなくなることこそが、実は一番の危険です |
なぜ足の先から?|神経障害が起こるメカニズム
高血糖の状態が続くと、なぜ神経が傷んでしまうのでしょうか。大きく2つのルートが知られています。
メカニズム図解|高血糖が神経を傷めるまで
| 高血糖が続く:血液中の余分なブドウ糖が、神経細胞の中で「ソルビトール」という物質に変わって蓄積します(ポリオール代謝異常) | |
| 神経に栄養を運ぶ細い血管が傷む:高血糖は毛細血管の血流も悪くします。神経が「栄養不足・酸素不足」の状態になります | |
| 長い神経の「末端」からダメージ:神経は長いほど影響を受けやすく、体の中で一番遠い「足の先」から症状が出ます | |
| 左右対称の「しびれ→感覚低下」へ:両足の先から始まり、進行すると足全体、さらに手の先へと広がっていきます(手袋・靴下型) |
「足の先から」「左右対称に」というのが糖尿病神経障害の大きな特徴です。逆に、片足だけのしびれや、腰から足にかけて走るような痛みは、腰の神経の圧迫(腰部脊柱管狭窄症など)や他の病気のこともあり、区別が大切です。気になる症状があれば、自己判断せずご相談ください。
こんな症状はありませんか?|セルフチェック
| 段階 | よくある症状 |
|---|---|
| 初期 | 足の指や足の裏のジンジン・ピリピリ感、正座のあとのようなしびれ、砂利の上を歩いているような違和感 |
| 中期 | 夜間に強くなる足の痛み、こむら返り(足がつる)が増える、手の指先のしびれ |
| 進行期 | 感覚が鈍り、けが・やけど・靴ずれに気づかない。足の変形や潰瘍(足病変)の危険が高まります |
また、神経障害は手足の感覚の神経だけでなく、内臓の働きを調整する自律神経にも及ぶことがあります。立ちくらみ(起立性低血圧)、便秘や下痢を繰り返す、汗のかき方が変わった、といった症状もそのサインのことがあります。
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重要|「痛みを感じない」ことの怖さ ・自律神経や感覚の神経が障害されると、狭心症・心筋梗塞が起きても胸の痛みを感じにくい「無痛性心筋虚血」が起こることがあります ・足のけがや低温やけどに気づかず放置すると、潰瘍・壊疽(えそ)に進行し、最悪の場合は足の切断に至ることもあります ・「しびれが消えて楽になった」と感じても、それは改善ではなく感覚が失われたサインのことがあります。自己判断で通院をやめないでください |
診断はどうやって?|アキレス腱反射と振動覚の検査
糖尿病神経障害の診断は、特別に大がかりな検査を必要とせず、外来の診察室でできる簡単な検査が基本です。日本で広く用いられている簡易診断基準(糖尿病性神経障害を考える会)では、次の3項目のうち2項目以上を満たす場合に神経障害の可能性が高いと判断します。
| 検査項目 | 内容 |
|---|---|
| ① 自覚症状 | 両足の指先・足裏のしびれ・痛み・感覚の異常(問診で確認します) |
| ② アキレス腱反射 | かかとの腱をゴムのハンマーで軽く叩き、反射の低下・消失をみます |
| ③ 振動覚検査 | 音叉(おんさ)という器具を足首の内くるぶしに当て、振動を感じられる時間を測ります(10秒以下で低下と判断) |
このほか、ナイロンの細い糸で足裏の感覚を調べるモノフィラメント検査も、足病変のリスク評価として国際的に広く使われています。いずれも痛みのない検査で、数分で終わります。当院でも診察の中で行っておりますので、「最近、足の感覚が気になる」という方はお気軽にお申し出ください。
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健診では見つからない合併症です 血液検査のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー:過去1〜2か月の血糖の平均を反映する値)だけでは、神経障害の有無はわかりません。糖尿病・糖尿病予備群と言われている方は、年に1回は足の診察(アキレス腱反射・振動覚・足の観察)を受けることをおすすめいたします。 |
治療の基本と、しびれ・痛みへの対処
基本は「血糖コントロール」と「生活習慣」
糖尿病診療ガイドライン2024でも、神経障害の発症・進行の抑制には良好な血糖コントロールの維持が基本とされています。特に初期の段階であれば、血糖の改善とともに症状の進行を抑えることが期待できます。あわせて、神経障害を悪化させる要因である喫煙・過度の飲酒を控えることも大切です。飲酒については、先日の記事でご紹介した「純アルコール量」の考え方が参考になります。
ただし、長く血糖が高かった方が急に厳格に血糖を下げると、一時的にしびれや痛みが強まる場合があることも知られており(治療後有痛性神経障害)、治療のペースは体の状態に合わせて調整することが大切です。当院では、お一人おひとりの経過に合わせて無理のない治療計画をご提案しています。
つらい痛み・しびれには保険診療のお薬も
夜も眠れないような痛み・しびれに対しては、神経障害性疼痛に保険適用のあるお薬(プレガバリン、デュロキセチンなど)を症状や体質に合わせて使用することがあります。効果の感じ方には個人差があり、眠気やふらつきなどの副作用に注意しながら、少量から調整していきます。市販の鎮痛薬では効きにくいタイプの痛みですので、我慢せずにご相談ください。
秋から始めるフットケア|足を守る生活のポイント
サンダルの季節が終わり、靴と靴下の季節が始まる今は、フットケアを見直す絶好のタイミングです。そしてこれから冬に向かうと、湯たんぽ・電気毛布・こたつによる低温やけどが、感覚の鈍くなった足にとって大きな危険になります。秋のうちから次の習慣を始めておきましょう。
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秋のフットケア・チェックリスト □ 毎日1回、足の裏・指の間まで目で見て確認する(見えにくければ鏡や家族の協力を) □ 夏の間のけが・水虫・タコ・ウオノメを放置していないか確認する □ 新しい靴は夕方に試着し、きつすぎないものを選ぶ(履き始めは短時間から) □ 深爪をせず、爪はまっすぐに切る □ 湯たんぽ・カイロを素肌に直接当てない(低温やけど予防) □ お風呂の温度は手で確認してから入る |
足の観察やケアの詳しい方法は、夏に公開したフットケア入門の記事でもご紹介しています。水虫(足白癬)の治療も足病変の予防にはとても大切です。
受診の目安
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受診前チェックリスト|ひとつでも当てはまれば一度ご相談を □ 両足の指先・足裏のしびれ・ピリピリ感が2週間以上続いている □ 夜、足の痛みやこむら返りで目が覚めることがある □ 健診で血糖値・HbA1cを指摘されたことがあるが、そのままにしている □ 足のけが・靴ずれ・やけどに気づくのが遅れたことがある □ 糖尿病で通院中だが、足の診察を1年以上受けていない |
当院は糖尿病内科・代謝内科を掲げ、院長の五藤良将(日本糖尿病協会登録医・日本抗加齢医学会専門医)が診療しております。内科と小児科を併設しておりますので、ご自身の受診のついでにご家族の健康相談をしていただくことも可能です。土曜も午前は診療しておりますので、平日お忙しい働き盛りの方もぜひご利用ください。田園調布・多摩川エリアで足のしびれや血糖値が気になったら、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 第10章 糖尿病性神経障害. 南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会「糖尿病性神経障害の評価・診断マニュアル」https://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=463(2026年8月閲覧)
- 糖尿病性神経障害を考える会. 糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準.
- 佐藤譲ほか. 糖尿病神経障害の発症頻度と臨床診断におけるアキレス腱反射の意義―東北地方15,000人の実態調査―. 糖尿病. 2007;50(11):799-806.
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南の医師が連携し、糖尿病とその合併症を多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医