皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
今週のブログでは、糖尿病の三大合併症について、「足のしびれ(神経障害)」「目の合併症(網膜症)」と続けてお伝えしてまいりました。三大合併症は、頭文字をとって「し・め・じ」(しんけい=神経、め=目、じんぞう=腎臓)と覚えると分かりやすい、と外来でもよくお話ししています。今回はその最後、「じ=腎臓(糖尿病性腎症)」がテーマです。
腎臓の合併症は、三大合併症の中でも特に「自覚症状がないまま静かに進む」ことが特徴です。そして現在、日本で新たに人工透析を始める方の原因疾患の第1位が糖尿病性腎症(約4割)であることは、あまり知られていません。本記事では、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」、日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」、そして2023年に改訂された「糖尿病性腎症病期分類2023」に基づき、腎臓を守るために今日からできることを、田園調布・多摩川エリアの皆さまに向けて分かりやすく解説いたします。
秋は健康診断の結果が手元に届く季節でもあります。「尿蛋白は(−)だったから大丈夫」と思っている方にこそ、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。
目次
三大合併症「し・め・じ」の最後——腎臓はなぜ大切?
腎臓は、腰のあたりに左右1つずつある、握りこぶし大の臓器です。内部には「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる毛細血管の塊が片方の腎臓だけで約100万個あり、1日に約150リットルもの血液をろ過して、老廃物や余分な水分・塩分を尿として排泄しています。いわば、体の中の精密な「ろ過フィルター」です。
糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)は、長く続く高血糖によってこの糸球体のフィルターが傷ついていく合併症です。神経障害・網膜症と並ぶ細小血管合併症(さいしょうけっかんがっぺいしょう=細い血管の合併症)のひとつで、進行すると腎臓の働きが失われ、人工透析(じんこうとうせき=機械で血液をろ過する治療)が必要になることがあります。
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重要|新規透析導入の原因 第1位は糖尿病性腎症 ・日本透析医学会の統計調査によると、日本で新たに人工透析を始める方の原因疾患の第1位は糖尿病性腎症で、約4割を占めます。 ・一方で、腎症は早い段階で見つけて治療すれば、進行を抑えたり、改善が期待できたりすることも分かってきています。だからこそ「早期発見」が何より大切です。 |
高血糖が腎臓を傷める仕組み(メカニズム図解)
なぜ血糖値が高いと、腎臓のフィルターが壊れてしまうのでしょうか。順を追って見てみましょう。
メカニズム図解|高血糖が腎臓のフィルターを壊すまで
| 高血糖が続く:糖で傷ついた血管の内側で炎症や酸化ストレスが起こり、糸球体の細い血管がもろくなっていきます。 | |
| フィルターに“過剰な圧”がかかる:高血糖や高血圧の影響で糸球体に流れ込む血液の圧が上がり(糸球体高血圧)、フィルターが目詰まり・網目のゆるみを起こします。 | |
| たんぱく質(アルブミン)が尿に漏れ出す:本来は漏れないはずの大切なたんぱく質が、ゆるんだ網目から尿へ漏れ始めます。これが「微量アルブミン尿」で、腎症の最初のサインです。 | |
| ろ過機能そのものが低下:壊れた糸球体は元に戻りません。働ける糸球体が減ると老廃物を排泄できなくなり(eGFR=推算糸球体ろ過量の低下)、進行すると腎不全・人工透析へと至ります。 |
ポイントは、ステップ3の「アルブミンが漏れ始めた段階」であれば、血糖・血圧の治療によって進行を抑えられる可能性が十分にあるということです。逆に、ステップ4まで進んで壊れてしまった糸球体は再生しません。腎症の治療は「早ければ早いほど有利」なのです。
自覚症状がないまま進む——腎症の経過と病期分類2023
糖尿病性腎症の怖さは、むくみやだるさなどの自覚症状が出るのは、かなり進行してからという点です。日本糖尿病学会・日本腎臓学会などの合同委員会は2023年に病期分類を改訂し、「糖尿病性腎症病期分類2023」として病期の名称も分かりやすく変更されました。
| 病期(2023年改訂) | 腎臓の状態 | 自覚症状の目安 |
|---|---|---|
| 第1期(正常アルブミン尿期) | 尿アルブミンは正常範囲 | なし |
| 第2期(微量アルブミン尿期) | ごく少量のアルブミンが尿に漏れ始める(30〜299mg/gCr) | ほぼなし |
| 第3期(顕性アルブミン尿期) | 尿蛋白検査でも(+)になる量のアルブミンが漏れる | むくみが出ることも |
| 第4期(GFR高度低下・末期腎不全期) | ろ過機能が大きく低下(eGFR 30未満) | むくみ・だるさ・貧血・食欲低下など |
| 第5期(腎代替療法期) | 人工透析や腎移植が必要な状態 | 全身症状 |
表のとおり、第1期・第2期には自覚症状がほとんどありません。「症状が出てから受診する」では遅いことがある——これが腎症の最大の落とし穴です。なお近年は、アルブミン尿がはっきり増えないままろ過機能が低下していくタイプも知られるようになり、糖尿病に関連する腎臓病を広くとらえた「DKD(糖尿病関連腎臓病)」という考え方も使われています。だからこそ、尿検査と血液検査(eGFR)の両方を定期的に確認することが大切です。
健診の尿蛋白(−)でも安心できない——「尿アルブミン検査」とは
「健康診断で尿蛋白はマイナスだったから、腎臓は大丈夫ですよね?」——外来でよくいただくご質問ですが、実はここに重要な見落としがあります。
一般的な健診で行う「尿蛋白」の試験紙検査は、比較的多い量のたんぱく質が漏れて初めて(+)になる検査です。つまり、腎症の最初のサインである「微量アルブミン尿」(第2期)は、健診の尿蛋白検査では検出できないことが多いのです。
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ポイント|尿アルブミン検査(尿中アルブミン/クレアチニン比) ① どんな検査?:少量の尿で、ごく微量のアルブミンの漏れを調べる検査です。痛みはなく、通常の尿検査と同じように受けられます。 ② 誰が対象?:糖尿病で通院中の方は、保険診療で定期的に受けることができます(糖尿病診療ガイドライン2024でも定期的な測定が推奨されています)。 ③ 意味は?:30〜299mg/gCrで「微量アルブミン尿」=早期の腎症のサイン。この段階で見つけて治療を始めることが、腎臓を守る最大のチャンスです。 |
当院でも、糖尿病で通院中の患者さまには定期的な尿アルブミン検査とeGFRの確認を行っております。「最近測った記憶がない」という方は、次回の受診時にお気軽にお声がけください。
腎臓を守るためにできること——生活習慣と治療の進歩
(1)基本は「血糖」と「血圧」の両方の管理
腎症の予防・進行抑制の土台は、血糖と血圧をセットで管理することです。糸球体のフィルターは高血糖だけでなく高血圧によっても傷むため、糖尿病で高血圧を合併する方では、一般的に診察室血圧130/80mmHg未満が降圧目標の目安とされています(高血圧管理・治療ガイドライン2025〔JSH2025〕)。ご家庭での血圧測定も、腎臓を守る大切な習慣です。
(2)食事——減塩と「食べ方」の工夫
減塩(1日6g未満が目標の目安)は血圧と腎臓の負担を減らします。先日の記事でご紹介した「カリウム・DASH食」や「食べる順番」の工夫も、血糖・血圧の改善を通じて腎臓を守ることにつながります。ただし、腎機能が低下している方ではカリウムやたんぱく質の摂り方に個別の調整が必要になるため、自己判断での極端な食事制限は避け、主治医や管理栄養士にご相談ください。当院では栄養相談も行っております。
(3)運動・禁煙・体重管理
ウォーキングなどの適度な運動は血糖・血圧の改善に有効で、涼しくなってきた秋は運動を始める良い季節です。喫煙は腎症進行の危険因子であり、禁煙は腎臓を守るうえでも重要です(当院では禁煙外来のご相談も承っております)。肥満のある方は、体重の約3%の減量でも血糖・血圧・脂質の改善が期待できると報告されています。
(4)治療の進歩——腎臓を守るお薬の選択肢が増えています
近年、糖尿病の治療薬の中に腎臓を保護する効果が示されたお薬が登場し、腎症治療は大きく進歩しています。たとえばSGLT2阻害薬(尿から糖を排泄するお薬)の一部は、大規模臨床試験で腎機能低下の進行を抑える効果が報告され、日本でも慢性腎臓病(CKD)に対する適応が追加されています(ダパグリフロジンは2021年8月、エンパグリフロジンは2024年2月に適応追加)。また、2型糖尿病を合併するCKDに対する新しいタイプのお薬(非ステロイド型MR拮抗薬フィネレノン、2022年承認)も使えるようになりました。
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お薬についての大切な注意 ・これらのお薬は医師が病状・腎機能・合併症を評価したうえで、適応がある場合に保険診療で処方する治療薬です。すべての方に適するわけではなく、効果の現れ方にも個人差があります。 ・SGLT2阻害薬は脱水などに注意が必要な場面もあるため、自己判断での開始・中断はせず、必ず主治医にご相談ください。ダイエット・美容目的での使用は本来の適応とは異なります。 |
受診の目安とチェックリスト
次のような方は、一度、腎臓のチェック(尿アルブミン検査・eGFR)についてご相談ください。
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受診前チェックリスト □ 糖尿病・糖尿病予備群と言われたことがあるが、尿アルブミン検査を最近受けた記憶がない □ 健診で「HbA1c高め」「血糖値高め」「eGFR低下」「クレアチニン高め」「尿蛋白±や+」を指摘された □ 高血圧・脂質異常症・肥満(メタボ)を合併している □ 最近、まぶたや足のむくみ、尿の泡立ちが気になる □ 糖尿病治療を中断してしまっている・通院が途切れている |
当院は糖尿病内科・代謝内科として、院長(日本糖尿病協会登録医・日本抗加齢医学会専門医)による血糖・血圧・脂質のトータル管理と、尿アルブミン検査・eGFRによる腎症の早期発見に取り組んでおります。内科と小児科を併設しておりますので、ご自身の受診のついでにご家族の健康相談もしていただけます。土曜午前も診療しており、平日お忙しい働き盛り世代の方もご相談いただきやすい体制です。田園調布・多摩川・大田区周辺で糖尿病や腎臓の検査値が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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腎臓は「静かに」傷んでいきます——症状が出る前のチェックが肝心です 尿アルブミン検査・腎機能(eGFR)の確認は、お電話(03-3721-5222)またはWEB予約・LINEからご予約いただけます。 竹内内科小児科医院(東急東横線・目黒線 多摩川駅 徒歩5分/土曜午前も診療) |
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院、港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南の医師が連携し、糖尿病とその合併症の管理を多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著「糖尿病診療ガイドライン2024」南江堂, 2024年.
- 日本腎臓学会 編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」東京医学社, 2023年.
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」糖尿病 66巻11号, 2023年.
- 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)」日本透析医学会雑誌, 2023年.
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」2025年.
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月.
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医