皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
朝晩の空気がすっかり秋めいてきた田園調布です。先日の外来で、糖尿病で通院中の患者さまから「最近、立ち上がったときにクラッとする」「食後にいつまでも胃がもたれる」というご相談を続けてお受けしました。実はこうした一見バラバラな症状の背景に、糖尿病の合併症のひとつである「糖尿病性自律神経障害(じりつしんけいしょうがい)」が隠れていることがあります。
以前の記事では、足の裏のしびれ・ピリピリ感として現れる「感覚神経」の障害を取り上げました。今回のブログでは、その続編として、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」の記載をもとに、胃腸・血圧・膀胱・汗・心臓など全身に及ぶ「自律神経」の合併症について、特に見逃すと危険な「無自覚性低血糖」「無痛性心筋虚血」のサインを中心に、やさしく徹底解説いたします。
前回の記事「足の裏の「しびれ・ピリピリ」は糖尿病神経障害のサインかも」と合わせてご参考にしてください。
THIS ARTICLE IS WRITTEN AND SUPERVISED BY
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医
この記事は五藤良将が執筆・監修し、内容に責任を持っています。
目次
「自律神経障害」とは?糖尿病神経障害のもう一つの顔
糖尿病の三大合併症のひとつ「糖尿病性神経障害」というと、足先のしびれやピリピリ感を思い浮かべる方が多いと思います。これは主に「感覚神経」の障害ですが、実は神経障害にはもう一つの顔があります。それが、内臓や血管の働きを調節する神経がダメージを受ける「糖尿病性自律神経障害(DAN:diabetic autonomic neuropathy)」です。
|
用語解説|自律神経(じりつしんけい)とは 自分の意思とは無関係に、心臓の拍動・血圧・胃腸の動き・排尿・発汗・体温などを24時間自動で調節している神経のことです。アクセル役の「交感神経」とブレーキ役の「副交感神経」がバランスを取り合って働いています。 この神経が高血糖で傷つくと、「立ち上がった瞬間に血圧を上げる」「食べたものを胃から送り出す」といった無意識の調節がうまくいかなくなり、全身のさまざまな場所に症状が現れます。 |
自律神経障害のやっかいな点は、症状が「立ちくらみ」「胃もたれ」「便秘」「汗のかき方の変化」など、加齢や疲れのせいと思い込みやすいものばかりだということです。「糖尿病と関係があるとは思わなかった」と診察室で驚かれる方が少なくありません。田園調布・大田区で長く糖尿病診療を続けてきた当院でも、よくお見かけするパターンです。
なぜ起こる?高血糖が自律神経を傷つけるメカニズム
高血糖の状態が長く続くと、なぜ自律神経が傷つくのでしょうか。おおまかな流れを図解でご紹介します。
メカニズム図解|高血糖が自律神経を傷つけるまで
| 高血糖が続く:血液中の余分なブドウ糖が、神経細胞の中で「ソルビトール」という物質に変換されて蓄積します(ポリオール代謝異常)。 | |
| 神経に栄養を送る細い血管が傷む:動脈硬化や血流低下により、神経が酸素・栄養不足に陥ります。 | |
| 体の隅々まで伸びる長い神経から障害される:足先の感覚神経とともに、内臓に分布する自律神経の線維も少しずつ傷んでいきます。 | |
| 血圧・胃腸・膀胱・汗・心臓の「自動調節」が乱れる:立ちくらみ、胃もたれ、便通異常、発汗異常、無自覚性低血糖などとして全身に現れます。 |
ポイントは、自律神経障害がある日突然ではなく、何年もかけて静かに進行することです。だからこそ、早い段階でサインに気づき、血糖コントロールを立て直すことが大切になります。
全身に現れるサイン|立ちくらみ・胃もたれ・便通異常・汗の異常
糖尿病性自律神経障害の主な症状を、体の場所ごとに整理してみましょう。
| 場所 | 代表的な症状 | 医学的な呼び方 |
|---|---|---|
| 血圧・循環 | 立ち上がった直後のめまい・ふらつき・目の前が暗くなる | 起立性低血圧(きりつせいていけつあつ) |
| 胃 | 食後の強い胃もたれ・少し食べただけの満腹感・吐き気 | 胃不全麻痺(いふぜんまひ) |
| 腸 | 頑固な便秘、または夜間・明け方の下痢を繰り返す | 糖尿病性下痢・便秘 |
| 膀胱 | 尿意を感じにくい・残尿感・尿の勢いの低下・膀胱炎を繰り返す | 神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう) |
| 汗・皮膚 | 足は乾燥してカサカサなのに、顔や上半身だけ大量に汗をかく(食事中の発汗など) | 発汗異常 |
| 性機能 | 勃起障害(ED) | 糖尿病性ED |
| 心臓 | 安静にしていても脈が速い・運動時に脈が上がりにくい | 心血管自律神経障害(CAN) |
| 血糖調節 | 低血糖なのに動悸・冷や汗などの警告サインが出ない | 無自覚性低血糖 |
起立性低血圧|「立ちくらみ=貧血」とは限りません
健康な方は、立ち上がった瞬間に自律神経が働いて下半身の血管をキュッと締め、血圧を保ちます。この反射が鈍くなると、立ち上がるたびに脳への血流が一時的に不足し、めまい・ふらつき・目の前が暗くなる感じが起こります。一般に、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下する場合などに起立性低血圧と判断します。転倒・骨折のきっかけにもなるため、特にご高齢の方では要注意です。
胃不全麻痺・便通異常|「胃腸が弱くなった」の陰に
胃の動きが低下する胃不全麻痺では、食べたものがいつまでも胃に残るため、胃もたれ・早期満腹感・吐き気が起こります。さらに重要なのは、食べたものの吸収のタイミングがずれることで、食後の血糖値が不安定になることです。「インスリンを打っているのに血糖が乱高下する」という方では、胃不全麻痺が隠れていることがあります。
|
用語解説|胃不全麻痺(いふぜんまひ/ガストロパレーシス)とは 胃の出口が詰まっているわけではないのに、胃の筋肉を動かす自律神経(迷走神経)の障害によって胃の内容物を十二指腸へ送り出す力が弱くなる状態です。糖尿病診療ガイドライン2024では、少量頻回・低脂肪・低残渣(食物繊維を控えめにする)の食事の工夫や、消化管運動を改善するお薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)による治療が挙げられています。胃カメラなどで他の病気を除外したうえで診断することが大切です。 |
膀胱・汗・性機能の症状も「神経」のサイン
尿意を感じにくくなり残尿が増えると、膀胱炎や腎盂腎炎(じんうじんえん)を繰り返す原因になります。また「足はカサカサに乾いているのに、食事のたびに顔から汗が噴き出す」といった発汗パターンの変化、勃起障害(ED)も、自律神経障害の代表的なサインです。どれも人に相談しにくい症状ですが、治療の選択肢がありますので、外来で遠慮なくお話しください。
|
こんな患者さまがいらっしゃいます(架空の症例です) 当院の外来でよく出会うケースをもとにした架空のモデル症例で、特定の患者さまの情報ではありません。 62歳・男性・会社員のAさん(2型糖尿病歴10年、HbA1c 8.2%、BMI 27)。「朝礼で立っているとクラッとする」「昼食後の胃もたれがひどく、午後は仕事にならない」とのことで受診。立った直後の血圧が座位より22mmHg低下しており、起立性低血圧と胃不全麻痺の疑いと判断。血糖コントロールの見直しと食事の工夫(少量頻回・低脂肪)、立ち上がり方の指導で、症状は少しずつ落ち着いていきました。 |
特に見逃せない2つ|無自覚性低血糖と無痛性心筋虚血
自律神経障害の中でも、命に関わりうる2つのサインは必ず知っておいていただきたいポイントです。
① 無自覚性低血糖|「警報装置」が鳴らなくなる
低血糖になると、通常は交感神経が働いて動悸・冷や汗・手のふるえといった警告症状が現れます。ところが自律神経障害が進むと、この「警報装置」が鳴らないまま血糖だけが下がり、前触れなく意識がもうろうとしたり、突然倒れたりすることがあります。これが無自覚性低血糖です。糖尿病診療ガイドライン2024では、無自覚性低血糖のある方は血糖自己測定をこまめに行いながら、できる限り低血糖を避けること、場合によっては血糖目標をやや緩やかに設定することが推奨されています。持続血糖モニター(CGM)による「見える化」も有力な対策です。
② 無痛性心筋虚血|「痛くない狭心症・心筋梗塞」
心臓に分布する自律神経が障害されると、狭心症や心筋梗塞が起きても典型的な胸の痛みを感じにくくなることがあります。これを無痛性心筋虚血と呼びます。「なんとなく息切れがする」「急に疲れやすくなった」「冷や汗だけ出る」といったあいまいな症状が、実は心臓のSOSだったというケースがあるのです。
|
重要|こんなときは我慢せずご相談・ご受診ください ・以前はあった低血糖の動悸・冷や汗が、最近出なくなった(家族から「ボーッとしていた」と言われる) ・胸の痛みがなくても、坂道や階段での息切れ・強い疲労感・原因不明の冷や汗が続く ・立ちくらみで転びそうになった・実際に転んだことがある ・突然の強い胸の痛み・意識障害を伴う場合は、ためらわず救急要請(119番)をしてください |
|
こんな患者さまがいらっしゃいます(架空の症例です) 74歳・女性のBさん(2型糖尿病歴15年、インスリン治療中)。以前は低血糖のたびに動悸と冷や汗があったのに、最近は「気づいたら手が震えて、血糖を測ると50mg/dL台だった」ということが数回。無自覚性低血糖と考え、CGM(FreeStyleリブレ)を導入し、主治医としてHbA1c目標を少し緩やかに再設定。ご家族にもブドウ糖の使い方を共有し、その後は大きな低血糖なく過ごされています。(モデル症例であり、特定の患者さまではありません) |
どうやって調べる?当院でできる検査と診断
自律神経障害は、問診と簡単な検査の組み合わせで評価できます。糖尿病診療ガイドライン2024でも、心電図を用いた心拍変動検査(CVR-R)が「簡便で有効」とされています。
|
用語解説|CVR-R(心拍変動係数)とは 心電図で心臓の拍動の間隔(R-R間隔)を連続して測り、そのゆらぎ(変動)の大きさを数値化した検査です。健康な心臓の拍動は呼吸に合わせて細かくゆらいでいますが、自律神経(特に副交感神経)が障害されると、このゆらぎが小さくなります。安静時と深呼吸時の心電図を記録するだけの、痛みのない数分間の検査です。 |
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 心電図(CVR-R) | 心臓の自律神経の働き。安静時頻脈の有無もチェックします |
| 臥位・立位の血圧測定 | 起立性低血圧の有無(横になった状態と立った状態の血圧を比較) |
| アキレス腱反射・振動覚・モノフィラメント | 合併しやすい感覚神経障害の評価(糖尿病診療ガイドライン2024の簡易診断項目) |
| 尿検査・残尿の評価 | 神経因性膀胱・尿路感染症のチェック |
| 血糖自己測定・CGM | 無自覚性低血糖の把握(夜間・食後の血糖変動の見える化) |
症状によっては、胃カメラによる胃の病気の除外や、循環器専門医での精密検査が必要になることもあります。当院では、内視鏡検査は姉妹院の五良会クリニック白金高輪と連携し、切れ目なくご紹介できる体制を整えております。
治療と生活の工夫|基本は血糖コントロール
糖尿病診療ガイドライン2024では、神経障害の発症・進行を抑えるために厳格な血糖コントロールが推奨(推奨グレードA)されています。1型糖尿病を対象としたDCCT研究では、血糖を厳格に管理することで神経障害の発症が約60%抑制されたと報告されています。そのうえで、症状ごとに次のような対策を組み合わせます。
|
症状別・今日からできる工夫と治療 ① 起立性低血圧:急に立ち上がらず、ひと呼吸おいてゆっくり動作する。水分をしっかりとる。弾性ストッキングの活用。血圧の薬の内容を主治医と見直す(自己判断で中止しない)。 ② 胃不全麻痺:1回量を減らして回数を分ける「少量頻回食」、脂肪と食物繊維を控えめに。消化管運動改善薬の併用。 ③ 便通異常:水分・適度な運動・排便リズムづくり。市販薬で改善しない場合は他の病気の除外も含めてご相談を。 ④ 無自覚性低血糖:血糖自己測定・CGMの活用、低血糖を起こしにくい治療への調整、血糖目標の再設定、ご家族との情報共有。 ⑤ ED:PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)による治療が有効とされています。心臓の薬(硝酸薬)との併用はできないため、必ず医師にご相談ください。 |
大切なのは、「歳のせい」とあきらめずに、糖尿病の主治医に症状を伝えることです。自律神経障害は進行してからでは回復が難しい合併症ですが、早い段階であれば血糖コントロールの改善と生活の工夫で進行を抑えることが期待できます。
受診前のチェックリスト
次のうち1つでも当てはまる方は、一度ご相談ください。糖尿病で通院中の方は、次回の診察時にぜひお話しください。
|
受診前チェックリスト □ 立ち上がった直後のめまい・ふらつきがよくある □ 食後の胃もたれ・少し食べただけの満腹感が続いている □ 頑固な便秘、または夜間の下痢を繰り返す □ 尿意を感じにくい・残尿感がある・膀胱炎を繰り返す □ 汗のかき方が以前と変わった(足の乾燥・食事中の顔の汗など) □ 低血糖の警告症状(動悸・冷や汗)が最近出なくなった □ 胸の痛みはないが、息切れ・疲れやすさが気になる |
🏥 竹内内科小児科医院で診るという選択(当院が選ばれる理由)
ここまでお読みいただいた自律神経障害のチェックと管理を、当院では日々の糖尿病外来の中でこのように行っています。
理由① 糖尿病・生活習慣病の専門的診療
日本糖尿病協会登録医・日本抗加齢医学会専門医の院長が、心電図(CVR-R)・起立時の血圧測定・神経学的診察まで、外来で直接診察いたします。
理由② 合併症チェックを院内で
デジタル無散瞳眼底カメラを備え、散瞳せずに網膜症のスクリーニングが可能です。神経・眼・腎臓の合併症チェックを通院の中で計画的に行います。
理由③ 内科×小児科でご家族そろって
お子さまからご高齢の方まで同じ窓口で受診でき、ご家族の生活全体を踏まえた療養のご相談が可能です。訪問診療にも対応しております。
理由④ 五良会グループの連携体制
胃不全麻痺の除外に必要な内視鏡検査は五良会クリニック白金高輪へ、認知症・頭痛は五良ファミリークリニックセンター南へ、切れ目なくご紹介できます。
理由⑤ 通いやすい立地と診療時間
東急東横線・目黒線「多摩川駅」徒歩5分。平日は19時まで、土曜も午前診療を行っており、お勤めの方も通院を続けやすい体制です。
立ちくらみ・胃もたれ・汗の変化——「歳のせい」と決めつける前に、一度ご相談ください。
ご予約はWEB予約(CLINICS)から。/お電話 03-3721-5222
五良会グループの関連記事
医療法人社団五良会では、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪が連携し、糖尿病の合併症管理を多角的にサポートしております。
|
関連記事|竹内内科小児科医院(田園調布)
|
|
関連記事|五良会クリニック白金高輪(港区)
|
五良会グループでは、田園調布から白金高輪まで医師が連携しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024「10章 糖尿病性神経障害」. 南江堂, 2024. https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/10.pdf(2026年9月閲覧)
- 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「神経障害」 https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/060/01.html(2026年9月閲覧)
- The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. N Engl J Med. 1993;329(14):977-986.
- 麻生好正. 糖尿病神経障害の最近の進歩 3. 自律神経障害. 糖尿病. 2014;57(8):598-601.
AUTHOR / SUPERVISOR
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将(ごとう よしまさ)
- 防衛医科大学校 医学部 卒業(27期)。防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院、自衛隊横須賀病院ほかで臨床経験を積む
- 医療法人社団 五良会 理事長/医療法人社団 正友会 理事長/竹内内科小児科医院 院長
- 日本内科学会 認定内科医/日本抗加齢医学会 専門医/日本糖尿病協会 登録医/日本旅行医学会 認定医
- 日本温泉気候物理医学会 温泉療法専門医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/難病指定医
- 所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本アレルギー学会、日本東洋医学会、日本リウマチ学会、日本外来小児科学会、日本抗加齢医学会、日本睡眠学会、日本美容内科学会、日本旅行医学会 ほか
- 著書『あぶら落とすスープ』(アスコム)。NHK・TBS・フジテレビ・日本テレビ・テレビ朝日などメディア出演多数
執筆・監修責任について
本記事は、五藤良将が公的機関の発表・国内外の診療ガイドライン・査読済み論文を確認したうえで執筆・監修しています。内容は公開時点の情報に基づくものであり、新しい知見やガイドラインの改訂があった場合は、こちらで記事を更新します。
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者さんの診断・治療に代わるものではありません。症状や治療のご判断については、必ず医師にご相談ください。記載内容について気になる点がございましたら、竹内内科小児科医院(03-3721-5222)までお知らせください。
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医