皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
朝晩に秋の気配を感じる季節となりました。9月は「世界アルツハイマー月間」、そして21日は敬老の日です。当院でも最近、糖尿病で通院中のご本人やご家族から「糖尿病があると認知症になりやすいと聞いたのですが、本当ですか?」というご質問をいただくことが増えました。
これまで当ブログでは、糖尿病の三大合併症「しめじ」(神経・眼・腎臓)と、太い血管の合併症「えのき」(壊疽・脳梗塞・狭心症)を順にご紹介してきました。今回はその続編として、近年注目されている“脳”の合併症=認知症との関係を取り上げます。本記事は、高齢者糖尿病診療ガイドライン2023(日本老年医学会・日本糖尿病学会)、糖尿病診療ガイドライン2024(日本糖尿病学会)と、国立健康危機管理研究機構・糖尿病情報センターの情報をもとに、予防のために今日からできることまで分かりやすくお伝えいたします。
目次
糖尿病があると認知症になりやすい?──データで見る関係
結論から申し上げますと、糖尿病のある方は、そうでない方に比べて認知症を発症しやすいことが国内外の研究で示されています。国立健康危機管理研究機構・糖尿病情報センターによりますと、糖尿病のある方ではアルツハイマー型認知症が約1.5倍、脳血管性認知症が約2.5倍なりやすいと報告されています。
また、福岡県の住民を長年追跡した有名な疫学調査「久山町研究」でも、糖尿病や血糖値が高めの状態(耐糖能異常)がある方は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが約2倍に上昇することが示されました。認知症は今や、網膜症・神経障害・腎症・動脈硬化に続く「もう一つの糖尿病合併症」として、世界的に注目されているのです。
| 認知症のタイプ | 特徴 | 糖尿病との関係 |
|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症 | もの忘れから始まり、ゆっくり進行する最多のタイプ | 約1.5倍(インスリンの働きの低下が関与) |
| 脳血管性認知症 | 脳梗塞・脳出血のあとに段階的に進むタイプ | 約2.5倍(動脈硬化・脳梗塞が直接の原因に) |
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ポイント|怖がらせるためのデータではありません 大切なのは「糖尿病=認知症になる」ではないということです。血糖・血圧・脂質を適切に管理することで、認知症のリスクは下げられる可能性があることが分かってきています。だからこそ、働き盛りの今からの生活習慣づくりと、高齢のご家族の通院継続が意味を持ちます。 |
なぜ血糖が高いと脳に影響するのか(メカニズム図解)
高血糖が脳に影響する経路は、大きく分けて「血管」と「インスリン」の2つです。
メカニズム図解|高血糖が脳にダメージを与える流れ
| 高血糖が続く:脳の細い血管の動脈硬化が静かに進行します(痛みなどの自覚症状はありません) | |
| 脳の血流が低下・小さな脳梗塞が起こる:自覚のない「隠れ脳梗塞」が積み重なり、脳血管性認知症の下地になります | |
| 脳でインスリンが働きにくくなる:インスリンは脳の記憶にも関わるホルモンです。その働きが落ちると、アルツハイマー型認知症の原因物質(アミロイドβ)がたまりやすくなると考えられています | |
| 記憶力・判断力の低下へ:「血管」と「インスリン」の両面から、認知機能の低下が進みやすくなります |
このように、アルツハイマー型認知症は「脳でインスリンがうまく働かない状態」という側面から、海外では“3型糖尿病”と呼ばれることもあります。血糖の管理は、目や腎臓だけでなく脳を守ることにもつながるのです。
見落とされがちな「低血糖」のリスク
意外に思われるかもしれませんが、認知症のリスクとして注意が必要なのは高血糖だけではありません。重症低血糖(意識がもうろうとする、他人の助けが必要になるほどの低血糖)を起こした方は、認知症の発症リスクが高くなることが報告されています。
さらに、認知機能が低下するとお薬の飲み間違いや食事の不規則さから低血糖を起こしやすくなるという、双方向の悪循環があることも分かっています。特にご高齢の方では、低血糖の症状(冷や汗・動悸など)が出にくく、気づかないうちに繰り返しているケースもあります。
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重要|こんなときは低血糖かもしれません ・夕方や食事が遅れたときに、ぼーっとする・生あくびが増える ・夜間や早朝の冷や汗・悪夢・起床時の頭痛 ・「最近急に元気がない」「反応が鈍い」とご家族が感じる → 自己判断でお薬を調整せず、必ず主治医にご相談ください。 |
高齢者の血糖目標は「厳しすぎない」個別設定が大切
「血糖は低ければ低いほど良い」と思われがちですが、ご高齢の方では必ずしもそうではありません。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は2016年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を公表し、高齢者糖尿病診療ガイドライン2023でもこの考え方が引き継がれています。
その特徴は、認知機能や日常生活動作(ADL)、使用しているお薬の種類に応じて、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー:過去1〜2か月の血糖の平均を反映する検査値)の目標をおおよそ7.0〜8.5%未満の範囲で一人ひとり個別に設定すること、そしてインスリンやSU薬など低血糖を起こしやすいお薬を使っている場合には、下げすぎを防ぐための「下限値」も設けられていることです。
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ご高齢の方の血糖管理で大切なこと ① 下げすぎない:厳格すぎる管理は低血糖を招き、かえって認知症や転倒のリスクになります ② 目標は人それぞれ:年齢・認知機能・生活の自立度・お薬の種類で適切な目標値は変わります ③ 定期的な見直し:体調や生活状況の変化に合わせて、目標とお薬を主治医と一緒に調整しましょう |
当院では、働き盛りの方の糖尿病予備群の段階から、ご高齢の方の「下げすぎない」管理、通院が難しくなった場合の訪問診療まで、ライフステージに合わせた糖尿病診療を行っております。
認知症予防のために今日からできる5つのこと
糖尿病のある方の認知症予防は、特別なことではなく、血糖・血圧・脂質をまとめて整える日々の積み重ねが基本です。涼しくなり始めるこれからの季節は、生活習慣を立て直す絶好のタイミングです。
① 有酸素運動+筋トレを習慣に
ウォーキングなどの有酸素運動は、血糖改善と認知機能の維持の両方に良い影響が期待できます。以前の記事でご紹介した週2〜3回の筋力トレーニングとの組み合わせがおすすめです。
② 食事は「量」より「順番とバランス」から
野菜から食べる「ベジファースト」、よく噛んでゆっくり食べる習慣は、食後の血糖上昇をゆるやかにします。極端な食事制限より、続けられる工夫を優先しましょう。
③ 血圧・コレステロールも一緒に管理
脳血管性認知症の予防には、血糖だけでなく高血圧・脂質異常症の管理が欠かせません。特に中年期からの血圧管理は、将来の認知症リスクに関わる重要な要素とされています。
④ 歯周病ケア・口腔ケアを忘れずに
歯周病は血糖コントロールを悪化させるだけでなく、よく噛めないことは認知機能にも影響します。かかりつけ歯科での定期的なケアをおすすめします。
⑤ 人とのつながり・楽しみを持つ
閉じこもりや社会的な孤立は認知症のリスク要因の一つです。趣味や地域の活動、ご家族との外出など、楽しみながら続けられる活動そのものが立派な予防策になります。
ご家族が気づきたい変化のサインと受診チェックリスト
認知機能の変化は、ご本人よりも周囲のご家族が先に気づくことが少なくありません。敬老の日やお彼岸で親御さんと過ごす機会に、さりげなく次の点を気にかけてみてください。
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受診前チェックリスト|糖尿病のあるご家族に、こんな変化はありませんか? □ お薬の飲み忘れ・飲み間違いが増えた(残薬が合わない) □ 同じことを何度も聞く、直前の食事の内容を思い出せない □ 通院日を忘れる、予約を重複して取ってしまう □ 冷蔵庫に同じ食品がいくつもある、食事が偏ってきた □ 血糖値やHbA1cが理由なく急に悪化、または低血糖が増えた □ 趣味や外出への興味が薄れ、閉じこもりがちになった |
当てはまる項目がある場合は、まずはかかりつけ医にご相談ください。血糖管理の調整と認知機能の評価を並行して行うことで、悪循環を早い段階で断ち切ることができます。当院は内科と小児科を併設した家族ぐるみのかかりつけ医として、お子さまからご高齢の方まで、ご家族単位でのご相談をお受けしております。土曜午前も診療しておりますので、平日はお仕事のご家族が付き添っての受診も可能です。
五良会グループの糖尿病×認知症サポート体制
五良会グループでは、田園調布の当院での糖尿病診療に加え、姉妹院の五良ファミリークリニックセンター南(横浜市都筑区・医療法人社団正友会)が認知症外来・高齢者糖尿病に力を入れており、専門的な認知機能の評価やご高齢の方の血糖管理についてグループ内で連携してご対応いたします。また、五良会クリニック白金高輪(港区)では糖尿病内科の専門外来や内視鏡検査・健康診断を行っております。
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五良会グループでは、田園調布から白金高輪、横浜・センター南まで医師が連携しております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本老年医学会・日本糖尿病学会 編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2023. 南江堂; 2023.
- 日本糖尿病学会 編著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂; 2024.
- 日本糖尿病学会・日本老年医学会合同委員会「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2016年.
- 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「認知症」https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/070/060/01.html(2026年8月閲覧)
- Ohara T, et al. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama Study. Neurology. 2011;77(12):1126-1134.
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医