皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
この1週間、当院のブログでは糖尿病の三大合併症——目(網膜症)・神経(神経障害)・腎臓(腎症)——を順番にご紹介してまいりました。頭文字をとって「しめじ」と覚える、細い血管の合併症です。今回はその完結編として、もうひとつの覚え方「えのき」——え(壊疽:えそ)・の(脳梗塞)・き(狭心症・心筋梗塞)——で知られる「太い血管の合併症(大血管障害)」についてお伝えいたします。
大血管の合併症は、しめじ以上に「命に直結する」合併症です。しかも糖尿病の方では、動脈硬化が自覚症状のないまま静かに進行し、心筋梗塞ですら痛みを感じにくいことがあります。本記事では、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」、日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」、日本高血圧学会「JSH2025」に基づき、なぜ糖尿病で動脈硬化が進むのか、そしてどう防ぐのかを分かりやすく解説いたします。
目次
「しめじ」と「えのき」——細い血管と太い血管、2つの合併症
糖尿病の合併症は、障害される血管の太さによって大きく2つに分けられます。
| 分類 | 覚え方 | 起こる合併症 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 細小血管障害 (細い血管) |
しめじ | し=神経障害 め=目(網膜症) じ=腎症 |
糖尿病に特有。高血糖の期間が長いほど進む |
| 大血管障害 (太い血管) |
えのき | え=壊疽(えそ) の=脳梗塞 き=狭心症・心筋梗塞 |
命に直結。糖尿病予備群の段階から進み始める |
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「えのき」は予備群の段階から始まっています 大血管障害の重要な特徴は、糖尿病と診断される前の「予備群(境界型)」の段階から動脈硬化が進み始めることです。「まだ予備群だから大丈夫」ではなく、健診でHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2か月の血糖の平均を反映する値)や血糖値を指摘された時点が、心臓と脳を守るスタートラインとお考えください。 |
なぜ高血糖で動脈硬化が進むのか(メカニズム図解)
動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが溜まって「プラーク」というこぶができ、血管が硬く・狭くなる状態です。高血糖はこの過程を何段階にもわたって加速させます。
メカニズム図解|高血糖が動脈硬化を進める流れ
| 血管の内側が傷つく:高血糖が続くと、血管の内側を覆う膜(血管内皮)が傷つき、血管を守る働きが低下します | |
| コレステロールが壁に入り込む:傷ついた壁からLDLコレステロール(悪玉)が入り込み、酸化されて炎症を起こします | |
| プラーク(こぶ)が育つ:高血圧・喫煙・内臓脂肪が加わると炎症がさらに進み、血管の内側にこぶが大きくなります | |
| プラークが破れて血管が詰まる:こぶが破れると血のかたまり(血栓)ができ、心臓の血管なら心筋梗塞、脳の血管なら脳梗塞、足の血管なら壊疽につながります |
ポイントは、この流れが血糖・血圧・脂質・喫煙の「合わせ技」で加速することです。糖尿病の方に高血圧や脂質異常症が重なると、動脈硬化のスピードは掛け算のように速くなります。だからこそ、後ほどご説明する「包括管理」が大切になります。
糖尿病の心筋梗塞は「痛みが出にくい」——見逃されやすいサイン
心筋梗塞といえば「胸をかきむしるような激痛」というイメージをお持ちの方が多いと思います。ところが糖尿病の方では、神経障害のために痛みの信号が伝わりにくく、胸の痛みをほとんど感じないまま心筋梗塞を起こしていることがあります(無症候性心筋虚血:むしょうこうせいしんきんきょけつ)。
そのため、糖尿病の方は次のような「痛み以外のサイン」にご注意いただきたいのです。
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重要|糖尿病の方が見逃してはいけない心臓のサイン ・以前は平気だった階段や坂道で、息切れするようになった ・胸の痛みではなく、胸の圧迫感・違和感、みぞおちの不快感、あご・肩・腕の重さ ・急に汗が出る、吐き気がする、理由のない強いだるさ ・健診の心電図で「異常あり・要精査」と言われたのに、症状がないので放置している |
「症状が軽いから軽症」とは限らないのが、糖尿病の心臓病の怖いところです。当院では心電図や血液検査でスクリーニングを行い、必要な場合は循環器専門の医療機関へ速やかにご紹介いたします。当院では第2・第4土曜午前に循環器内科の専門外来も行っておりますので、気になるサインのある方はご相談ください。
脳梗塞・足の動脈硬化(壊疽)のサイン
脳梗塞——「FAST」で早期発見
脳の血管が詰まる脳梗塞は、発症から治療開始までの時間が勝負です。F(Face:顔の片方がゆがむ)・A(Arm:片腕に力が入らない)・S(Speech:ろれつが回らない)・T(Time:すぐに発症時刻を確認して救急車)の「FASTチェック」を、ご家族みんなで覚えておいてください。一時的に症状が消えても(一過性脳虚血発作:TIA)、本格的な脳梗塞の前触れのことがあり、受診が必要です。
足の動脈硬化(末梢動脈疾患:PAD)——「歩くとふくらはぎが痛い」に注意
足の太い血管が狭くなると、しばらく歩くとふくらはぎが痛くなり、休むとまた歩けるという特徴的な症状(間欠性跛行:かんけつせいはこう)が現れます。さらに進むと、じっとしていても足が痛む、傷が治らない、足先が黒ずむ——といった壊疽の段階に進んでしまいます。
先日の記事でご紹介した糖尿病神経障害(足のしびれ)とこの血流障害が重なると、痛みを感じないまま足の傷が悪化するという悪循環が生まれます。糖尿病の方の足は「神経」と「血管」の両方から守る必要があるのです。足の冷え・色の変化・脈の触れにくさなども、遠慮なく診察時にお見せください。
「えのき」を防ぐカギは血糖だけではない——4つの包括管理
細い血管の合併症(しめじ)は血糖コントロールが対策の中心ですが、太い血管の合併症(えのき)を防ぐには、血糖・血圧・脂質・禁煙(+適正体重)をまとめて管理することが重要であると、糖尿病診療ガイドライン2024でも強調されています。目安となる管理目標をまとめます。
| 管理項目 | 目標の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 血糖 | 合併症予防にはHbA1c 7.0%未満(年齢・低血糖リスクにより個別に設定) | 糖尿病診療ガイドライン2024 |
| 血圧 | 糖尿病のある方は診察室で130/80mmHg未満が目安 | 高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025) |
| 脂質 | 糖尿病のある方はLDLコレステロール120mg/dL未満が目安(末梢動脈疾患などを合併する場合は100mg/dL未満、心筋梗塞の既往がある場合はさらに厳格に) | 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 |
| 喫煙・体重 | 禁煙は動脈硬化対策の基本。内臓脂肪型肥満では現体重の3%減からで血圧・血糖・脂質の改善が期待できます | 同上・肥満症診療ガイドライン |
※上記はあくまで一般的な目安であり、実際の目標値は年齢、罹病期間、合併症の状況、低血糖のリスクなどを踏まえて、お一人おひとり個別に設定いたします。
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ポイント|今日からできる「えのき」対策 ① 数値を知る:ご自身のHbA1c・血圧・LDLコレステロールの最新値を言えるようにしておきましょう。家庭血圧の記録も大切です ② 食事:減塩・野菜から食べる「ベジファースト」・純アルコール量を意識した節酒は、血糖と血圧の両方に効果的です ③ 運動:涼しくなる秋は再開のチャンス。息が弾む程度の有酸素運動を週150分+週2〜3回の筋トレが目安です ④ 禁煙:喫煙は血管を傷つける最大級の要因です。おやめになりたい方は診察時にご相談ください |
当院でできる検査と五良会グループの連携
竹内内科小児科医院では、糖尿病・生活習慣病の「えのき」対策として、次のような診療を行っております。
- 血液検査:HbA1c・血糖値・LDLコレステロール・中性脂肪・腎機能(eGFR)などを定期的にチェック
- 心電図検査:無症状のうちから心臓の異常をスクリーニング(第2・第4土曜午前は循環器内科専門外来も)
- 尿検査(微量アルブミン尿)・無散瞳眼底カメラ:「しめじ」の早期発見もあわせて実施
- 栄養相談・生活指導:食事療法・運動療法を管理栄養士とともに無理のない形でサポート
- 訪問診療:通院が難しくなった方の糖尿病・高血圧管理にも対応
健診で血糖・血圧・コレステロールのいずれかを指摘された方、ご家族に心筋梗塞や脳梗塞を起こした方がいらっしゃる方は、症状がなくても一度ご相談ください。土曜午前も診療しておりますので、働き盛りの世代の方もご来院いただきやすい体制です。
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受診前チェックリスト|ひとつでも当てはまれば早めのご相談を □ 健診でHbA1c・血糖値・血圧・LDLコレステロールのいずれかを指摘された □ 階段や坂道で以前より息切れする/胸の圧迫感・違和感がある □ しばらく歩くとふくらはぎが痛み、休むと楽になる □ 足のしびれ・冷え・治りにくい傷がある □ タバコを吸っている/ご家族に心筋梗塞・脳梗塞を起こした方がいる □ 健診の心電図異常を「症状がないから」と放置している |
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五良会グループでは、田園調布の竹内内科小児科医院と港区の五良会クリニック白金高輪、横浜市都筑区の五良ファミリークリニックセンター南(医療法人社団正友会)の医師が連携し、糖尿病・生活習慣病の合併症予防を多角的にサポートしております。患者さまの転居やライフスタイルの変化に合わせて、同じグループ内で継続診療が受けられる体制を整えております。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著「糖尿病診療ガイドライン2024」南江堂, 2024.
- 日本動脈硬化学会 編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」2022.
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」2025.
- 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会「糖尿病標準診療マニュアル2026」2026.
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024.
竹内内科小児科医院 院長 五藤 良将
日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医・日本旅行医学会認定医