【医師監修】RSウイルス母子免疫ワクチンの効果はいつまで続く?|母体の免疫持続と次回妊娠での再接種を最新論文から解説【田園調布】

令和8年(2026年)4月1日から、妊婦さん向けのRSウイルスワクチン(アブリスボ®)が定期接種になりました。前回の記事(RSウイルスワクチン(母子免疫ワクチン)が令和8年4月から定期接種に|大田区での接種・効果・副反応を解説)では、ワクチンの仕組みと大田区での接種の流れを解説しました。

その後、当院で妊婦さんからよく寄せられる質問が次の3点です。

  • 接種したお母さんの免疫は、いったいいつまで続くのか?
  • 赤ちゃんは生後何か月まで守られるのか?
  • 次の妊娠のときにも、もう一度接種する必要があるのか?

今回は、2026年3月にオックスフォード大学出版局のJournal of Infectious Diseases誌に掲載された最新論文(Kachikisら、2026年)、および国際共同第III相試験MATISSEの最終解析(Simõesら、2025年)を中心に、母体と赤ちゃんそれぞれの「免疫持続期間」について、医学的エビデンスに基づいてわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 乳児が母体由来の抗体で守られる期間(MATISSE最終解析)
  • 接種したお母さん自身の抗体が1年後にどうなっているか(Kachikis 2026)
  • 次回妊娠での再接種について、日本と米国で異なる運用方針
  • 当院(竹内内科小児科医院)での実際の接種方針

1. 赤ちゃんを守る免疫は、生後いつまで続くのか?

妊娠28週0日〜36週6日の間にお母さんが接種したRSウイルスワクチンは、胎盤を介して赤ちゃんへ抗体(IgG)を移行させます。この受け取った抗体が、生まれてから数か月のあいだ赤ちゃんを守る仕組みです。

MATISSE試験最終解析で示された予防効果(生後90日・180日)

アブリスボ®の承認の根拠となったMATISSE試験(Kampmannら、N Engl J Med 2023;388:1451-1464)と、その後公表された最終解析(Simõesら、Obstet Gynecol 2025;145:157-167)では、以下のような予防効果が報告されています。

予防項目 生後90日以内 生後180日以内
医療機関受診を要した
重症RSV下気道感染症の予防
82.4%
(95%CI 57.5–93.9)
70.0%
(95%CI 50.6–82.5)

さらに、日本の定期接種と同じ妊娠32〜36週のサブグループに限った事後解析(AlZeeraらによる系統的レビュー 2025およびSwiss post hoc解析)では、重症疾患に対する有効率は90日時点で91.1%、180日時点で76.5%と報告されています。推奨された時期に接種した場合は、特に高い重症化予防効果が期待できます。

エビデンス:生後6か月まで高い中和抗体が持続

ファイザー社がCDC(米国予防接種諮問委員会)に提出した解析資料(Munjal I、ACIP 2023年2月)では、「妊娠24〜36週に母親が接種した場合、赤ちゃんの中和抗体価は生後6か月時点でも高値を維持している」ことが明示されています。

これは、RSウイルス重症化リスクがもっとも高い「生後0〜6か月」という期間と、ちょうど設計上マッチしています。

なぜ「6か月」という区切りなのか

RSウイルス感染による入院リスクは、生後2〜3か月がピークで、6か月を過ぎると急激に低下します(MATISSE試験より、重症RSV下気道感染症のうち最年少例は生後8日)。これは、生後半年を過ぎると赤ちゃん自身の免疫系が立ち上がり、感染しても重症化しにくくなるためです。

IgG抗体は血中半減期が約3週間で、月を追うごとに少しずつ減衰していきます。MATISSE試験の抗体測定でも、乳児の中和抗体価は徐々に低下しますが、もっとも守りたい生後6か月までの「脆弱期」を覆えるだけの量が維持されるように設計されているのです。

2. お母さん自身の免疫は、いつまで続くのか?

ここからが、今回の記事で特にお伝えしたい新しい内容です。

これまで「お母さんの体内でRSV抗体はどのくらい持続するのか」については、MATISSE試験の論文でもまとまった報告がなく、Pfizer社自身の公式Q&A(2025年6月時点)でも「本剤接種による母体での抗RSV抗体産生の持続期間、および2人目以降の妊娠時の胎盤移行については明らかになっておりません」と述べられていました。

この重要な問いに正面から答えた最新論文が、2026年3月にJournal of Infectious Diseases誌に掲載されたKachikisらの研究です。

Kachikis 2026論文:接種1年後も抗体は維持されていた

ワシントン大学のAlisa Kachikis医師らは、アブリスボ®を接種した妊婦36名、接種していない妊婦14名、および高齢者16名を対象に、接種から12〜15か月後までの抗体価を縦断的に測定しました。その結果は以下のとおりです。

対象群 初回測定時
結合抗体価(中央値)
接種後12〜15か月時点
結合抗体価(中央値)
接種妊婦(分娩時→追跡) 6.16 log AU/mL 5.79 log AU/mL
接種高齢者(1か月後→追跡) 6.18 log AU/mL 5.98 log AU/mL
未接種妊婦(対照) 5.29 log AU/mL 5.50 log AU/mL

この結果から読み取れるポイントは3つあります。

Kachikis 2026から読み取れる3つのポイント

1 接種1年後もベースラインより有意に高値を維持:接種妊婦の12〜15か月後の抗体価(5.79)は、未接種妊婦の同時期(5.50)よりも高いままでした。
2 減衰スピードは高齢者とほぼ同じ:妊婦で月あたり−0.030 log、高齢者で−0.026 logと、ほぼ同等でした(P=0.73)。妊娠中の特殊な免疫状態があっても、抗体の持続性は高齢者と大きく変わらないことが示されました。
3 結合抗体と中和抗体はよく相関する:相関係数R=0.73で、簡便な結合抗体測定でも感染防御に寄与する中和抗体の水準を推定できることがわかりました。

高齢者でも「2シーズン」の有効性が確認されている

同じアブリスボ®を使った高齢者(60歳以上)向けのRENOIR試験では、1回接種で2シーズンにわたり有効性が保持されることが示されています(Walshら、N Engl J Med 2024;391:1459-1460)。また、実臨床での有効性調査(Surieら、JAMA 2025;334:1442-1451)でも、2シーズン目までの入院予防効果が確認されました。

妊婦さんでKachikis論文の抗体動態が高齢者と類似しているという事実は、「1回接種で得られた母体の免疫は、少なくとも1年程度は一定のレベルで持続する」可能性を示唆しています。

3. 次の妊娠でも、もう一度打つべきか?

ここが患者さんにとってもっとも関心の高いポイントで、そして日本と米国で運用が大きく異なる部分です。

機関 次回妊娠での再接種に関する立場
日本(厚生労働省・令和8年4月定期接種) 過去の妊娠時に接種経験があっても、今回妊娠でふたたび定期接種の対象となる(妊娠ごとに1回)
米国CDC/ACIP 前回妊娠で接種済の場合、次回妊娠での再接種は推奨していない。代わりに、生まれた赤ちゃんにニルセビマブ(抗RSVモノクローナル抗体)を投与する方針(Fleming-Dutraら、MMWR 2023;72:1115-1122)
ファイザー社公式見解 母体抗体の持続期間、および次回妊娠時の胎盤移行の効率についてはデータが不十分と明言

なぜ運用が分かれているのか

米国では、ニルセビマブが広く流通しており、赤ちゃんに直接抗体を投与する選択肢が確保されています。そのため、「お母さんへの2回目接種は科学的根拠が不十分なので保留し、赤ちゃん側でカバーする」という戦略が可能です。

一方、日本ではニルセビマブ(シナジス®とは別製剤)の健常児への一般使用が確立されていないため、「次の妊娠でも母体にワクチンを打ち、確実に児を守る」という方針が採用されました。どちらも、それぞれの医療制度の中で合理的な判断です。

Kachikis論文の著者らはどう考えているか

Kachikisらは論文の結論部分で、「接種1年後も抗体は十分に持続している」という結果を示しつつも、次のように述べています(要約)。

産後の抗体減衰を踏まえると、乳児の保護を最大化するために次回妊娠での再接種は妥当かもしれない。ただし、最適な接種間隔はまだ定義されておらず、さらなる大規模研究が必要である。

つまり、「再接種は有害ではないが、その追加のメリットは現時点で定量化されていない」という、慎重な立場です。

4. 竹内内科小児科医院での対応方針

当院では、以上のエビデンスを踏まえて、以下のように対応しています。

状況 当院の方針
今回がRSウイルスワクチン初回接種 妊娠28週0日〜36週6日の間に、定期接種として1回接種をお勧めしています。
前回の妊娠時に接種済み 日本の定期接種制度上は今回の妊娠も対象です。現時点で「必須」とは言い切れませんが、最新の抗体持続データ(Kachikis 2026)と制度の両方をお伝えし、ご本人の意思決定を尊重しています。
お母さんに妊娠高血圧症候群のリスクがある 海外の一部報告で発症リスク増加の可能性が指摘されているため、必ず産科主治医と情報を共有のうえ判断します。
妊娠38週6日までに出産予定 接種後14日以内の出生では児への抗体移行が間に合わない可能性があります。産科主治医と相談のうえ、接種の可否を決定します。

重要:「1年後でも抗体がある」からといって接種を省略してよいわけではありません

Kachikis 2026の研究対象は36名と小規模であり、「母体抗体がどのくらいあれば、次の児に十分な胎盤移行が起こるのか」を示したものではありません。また、2人目以降の妊娠で胎盤移行効率がどう変化するかも未解明です。今回の結果は「安心材料」ではありますが、「再接種不要の根拠」にはなりません。判断は担当医と相談のうえ行ってください。

5. まとめ:3つの疑問への回答

疑問 エビデンスに基づく回答
赤ちゃんはいつまで守られる? 生後6か月までは中和抗体が高値で維持され、重症化予防効果は90日で82.4%、180日で70.0%。32〜36週接種では特に高い。
お母さんの免疫はいつまで続く? 接種後12〜15か月の時点でも、未接種妊婦より高い抗体価が維持されている(Kachikis 2026)。減衰速度は高齢者とほぼ同じ。
次の妊娠でも打つ? 日本の定期接種制度では対象に含まれる。米国では非推奨。ファイザー社公式もデータ不十分と明言。担当医と相談を。

次回妊娠での再接種については今後の大規模研究が待たれますが、現時点でのもっとも確実なメッセージは「初回接種は積極的にお勧め」ということです。アブリスボ®の最大の目的は、赤ちゃんがもっとも重症化しやすい生後6か月までの期間を守り抜くことにあります。

妊娠28週を過ぎたら、ぜひ当院にご相談ください。内科と小児科が併設された当院では、妊娠中のお母さまの体調管理から、出産後の赤ちゃんの予防接種・乳幼児健診まで、ひとつのクリニックで一貫してサポートいたします。

ご予約は電話(03-3721-5222)WEB予約、または公式LINEから承っております。

竹内内科小児科医院 院長 五藤良将

参考文献

  • Kachikis A, Frivold C, Pike M, et al. Comparison of Respiratory Syncytial Virus (RSV)–Specific Antibody Durability in Pregnant/Postpartum Individuals and Older Adults After RSV Vaccination. J Infect Dis. 2026;jiag111. doi:10.1093/infdis/jiag111
  • Simões EAF, Pahud BA, Madhi SA, et al. Efficacy, Safety, and Immunogenicity of the MATISSE (Maternal Immunization Study for Safety and Efficacy) Maternal Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine Trial. Obstet Gynecol. 2025;145:157-167. PMID: 39746212
  • Kampmann B, Madhi SA, Munjal I, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464. PMID: 37018474
  • Walsh EE, Pérez Marc G, Falsey AR, et al. RENOIR trial—RSVpreF vaccine efficacy over two seasons. N Engl J Med. 2024;391:1459-1460. PMID: 39413383
  • Walsh EE, Falsey AR, Zareba AM, et al. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Vaccination: Antibody Persistence and Revaccination. J Infect Dis. 2024;230:e905-e916. PMID: 38606958
  • Surie D, Self WH, Yuengling KA, et al. RSV vaccine effectiveness against hospitalization among US adults aged 60 years or older during 2 seasons. JAMA. 2025;334:1442-1451. PMID: 40884491
  • Fleming-Dutra KE, Jones JM, Roper LE, et al. Use of the Pfizer Respiratory Syncytial Virus Vaccine During Pregnancy for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus-Associated Lower Respiratory Tract Disease in Infants: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices—United States, 2023. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;72:1115-1122. PMID: 37824423
  • ファイザー株式会社. アブリスボ筋注用 医療関係者向けFAQ(2025年6月時点)
  • 大田区. RSウイルス予防接種(令和8年4月1日開始). https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/yobou_sessyu/kodomo/20260401_rs.html

※本記事は令和8年4月時点の公表情報および査読付き学術論文に基づいて作成しております。制度内容や運用は変更される可能性がありますので、最新情報は各公式サイトまたは当院までお問い合わせください。
監修:五藤 良将(医師)/医療法人社団五良会 理事長/竹内内科小児科医院 院長

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