【医師監修】糖尿病治療の最前線|メトホルミン・SGLT2・CGM個別化+抗老化の最新エビデンス【田園調布】

これまでのブログシリーズでは、境界型糖尿病の早期発見メタボからの進行メカニズム家族歴と遺伝的リスクについてお伝えしてきました。

今回の続編では、これまでの「予防」「発見」のステージから一歩進んで、実際に糖尿病と診断された方のための「治療」の最前線にフォーカスします。特に注目いただきたいのは、この10年で糖尿病治療は大きなパラダイムシフトを迎えたということです。単に血糖値を下げるだけでなく、心臓・腎臓を守る薬剤の登場、CGM(持続血糖モニター)による個別化医療、そして病態に応じた薬の使い分けが可能になりました。

糖尿病治療

今回のブログでは

 ■日本と欧米の糖尿病治療戦略の根本的な違い
 ■メトホルミン─60年以上使われる「第一選択薬」の実力
 ■SGLT2阻害薬─心臓と腎臓を守る新世代の糖尿病薬
 ■GLP-1受容体作動薬─血糖・体重・心血管イベントを同時に改善
 ■病態別の薬剤選択─肥満型・痩せ型・高齢者・CKD併発
 ■CGM(リブレ)による個別化治療の実際
 ■糖尿病薬は老化を遅らせるか? ─ Geroscience(老化医科学)の視点
 ■合併症(網膜症・腎症・神経障害・心血管病)の早期発見と予防
 ■食事療法─『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』の考え方

についてお伝えいたします。

この記事のポイント

糖尿病治療の目的は「HbA1cを下げること」ではなく、合併症を防いで健康寿命を延ばすことです。近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の登場により、単なる血糖降下薬ではなく心臓・腎臓を守る薬として位置づけが変わりました。また日本では、欧米型の「メトホルミン一択の第一選択」ではなく、患者さんの病態(インスリン分泌低下型か抵抗性型か、肥満の有無、腎機能など)に応じて薬を選ぶ個別化戦略が推奨されています。

日本と欧米の治療戦略はなぜ違うのか

糖尿病治療について調べていると、「メトホルミンが世界標準の第一選択薬」という情報に触れることが多いかもしれません。しかし日本の診療ガイドラインでは、一律の第一選択薬を定めていません。これは日本の治療が遅れているわけではなく、日本人と欧米人の糖尿病の病態が根本的に異なるためです。

欧米の2型糖尿病患者さんは、多くが高度な肥満と強いインスリン抵抗性を背景に発症します。一方、日本人を含む東アジア人では、膵β細胞のインスリン分泌能が遺伝的に低いことが知られており、肥満が軽度でも糖尿病を発症する「痩せ型糖尿病」の方が半数近くを占めます。そのため、欧米で効果的な治療戦略が、日本人にはそのまま適用できないのです。

エビデンス:熊本スタディ(Kumamoto Study)

1995年に発表された日本発の画期的研究。日本人2型糖尿病患者110名を対象に、強化インスリン療法と従来療法を6〜8年比較した結果、強化療法群で網膜症の進行を69%、腎症の進行を70%抑制しました。HbA1c 6.5%未満、空腹時血糖110mg/dL未満、食後2時間血糖180mg/dL未満という日本独自の管理目標の根拠となり、現在も日本の糖尿病治療の礎となっています(Ohkubo Y et al. Diabetes Res Clin Pract 1995; Shichiri M et al. Diabetes Care 2000)。

日本糖尿病学会は2022年に「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を公表しました。そこでは、Step1で「病態に応じた薬剤選択」、Step2で「安全性への配慮」、Step3で「Additional benefits(合併症予防効果)」の観点から薬剤を選ぶ、3ステップの考え方が示されています。この考え方が、個別化医療の基本となっています(日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド2024-2025』)。

項目 欧米(ADA/EASD) 日本(日本糖尿病学会)
患者の主な病態 肥満型・インスリン抵抗性が主体 痩せ型・インスリン分泌低下も半数近く
第一選択薬 メトホルミンを推奨(歴史的には) 病態に応じて選択(一律の第一選択なし)
治療の考え方 心血管リスク・腎症の有無で分岐 3ステップ(病態→安全性→追加効果)
インスリン療法の位置づけ 最終手段として後回し 必要時には早期導入を推奨(熊本スタディ)

メトホルミン─60年以上使われる「第一選択薬」の実力

メトホルミンは1957年にフランスで発売されたビグアナイド系の糖尿病薬です。実に60年以上の歴史がありながら、今なお世界で最も処方されている糖尿病薬の一つ。安価で、血糖降下作用に優れ、体重増加を起こさず、低血糖のリスクも低いという優れた特性を持ちます。

メトホルミンの3つの作用機序

1 肝臓の糖新生を抑制
主作用。肝臓で作られる糖(糖新生)を減らし、空腹時血糖を改善します。
2 筋肉でのインスリン感受性改善
筋肉での糖取り込みを促進し、インスリン抵抗性を改善します。
3 腸管からの糖吸収を緩やかに
消化管での糖吸収を遅らせ、食後血糖の急上昇を抑えます。

エビデンス:UKPDS 34試験(メトホルミンの心血管保護効果)

1998年に発表された英国の大規模臨床試験。過体重の新規2型糖尿病患者753名を、メトホルミン強化療法群と食事療法群で10.7年間比較しました。その結果、メトホルミン群では糖尿病関連エンドポイントが32%減少、全死亡が36%減少、心筋梗塞が39%減少。さらに、インスリンやスルホニル尿素薬と比較して体重増加と低血糖が少ないことから、過体重患者における第一選択薬と位置づけられました(UKPDS 34 Group, Lancet 1998)。

メトホルミンが向いている方

メトホルミンは以下のような方に特にお勧めです:

  • 肥満または過体重(BMI 25以上)でインスリン抵抗性が主体の方
  • 体重を増やしたくない方
  • 食後血糖が高い方
  • 経済的な負担を軽くしたい方(ジェネリック薬で1錠10円程度)

メトホルミンの使用に注意が必要な方

メトホルミンは極めて稀ですが、乳酸アシドーシスという重篤な副作用を起こすことがあります。以下の方では慎重投与または禁忌となります:

  • 腎機能が著しく低下している方(eGFR 30未満は禁忌)
  • 高齢者(日本糖尿病学会『メトホルミンの適正使用に関するRecommendation 2020』では75歳以上は慎重投与)
  • 脱水、大量飲酒、心不全・肝不全のある方
  • ヨード造影剤使用前後(48時間の休薬が必要)

SGLT2阻害薬─心臓と腎臓を守る新世代の糖尿病薬

SGLT2(Sodium-Glucose Cotransporter 2)阻害薬は、糖尿病治療の概念を一変させた画期的な薬剤です。腎臓の尿細管で糖が再吸収されるのを阻害し、余分な糖を尿から排泄させるという独特なメカニズムを持ちます。1日あたり約70〜80gの糖を尿から排出するため、カロリーでいうと約300kcalを「垂れ流し」にする効果があります。

しかし、SGLT2阻害薬の真の価値は、血糖降下作用そのものよりも、心血管イベントの抑制・腎機能保護・心不全予防にあります。これらの効果は血糖降下作用だけでは説明できない独立した効果であり、「糖尿病薬」という枠を超えて心臓病や腎臓病の治療薬としても使われるようになっています。

エビデンス:EMPA-REG OUTCOME試験

心血管リスクの高い2型糖尿病患者7,020名を対象にした大規模試験。エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)群は、プラセボ群と比較して、心血管死が38%減少、全死亡が32%減少、心不全による入院が35%減少しました。さらに腎機能解析では、顕性腎症への進行が39%減少、透析導入が55%減少という衝撃的な結果が示されました(Zinman B et al. NEJM 2015; Wanner C et al. NEJM 2016)。

SGLT2阻害薬が向いている方

  • 心不全の既往または心不全リスクが高い方
  • 慢性腎臓病(CKD)を併発している方
  • 心筋梗塞・脳梗塞の既往がある方
  • 肥満で体重を減らしたい方(116のランダム化比較試験のメタアナリシスで平均1.79kg減量、Cheong AJY et al. Obesity 2022)
  • 血圧が高めの方(SGLT2阻害薬には降圧効果もあり)

SGLT2阻害薬の注意点

  • 脱水:尿量が増えるため、こまめな水分補給が必須(特に夏場・高齢者)
  • 尿路・性器感染症:糖が尿に出るため、女性で頻度がやや増加
  • 痩せ型・高齢者では慎重に:過度の体重減少・サルコペニア(筋肉量低下)のリスク
  • シックデイには休薬:発熱・下痢・脱水時は一時中止
  • 正常血糖ケトアシドーシス:稀だが重篤。血糖値が正常でも起きうる

GLP-1受容体作動薬─血糖・体重・心血管イベントを同時に改善

GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)は、食事をすると小腸から分泌されるインクレチンという消化管ホルモンの一種です。GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い時だけインスリン分泌を促進するという画期的な作用を持ち、低血糖を起こしにくい薬剤です。また、脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにすることで体重減少効果も発揮します。

注射薬として登場しましたが、近年は経口セマグルチド(リベルサス®)という飲み薬も使えるようになり、注射が苦手な方にも選択肢が広がりました。肥満症治療薬(ウゴービ®)としても承認されています。

エビデンス:LEADER試験(リラグルチドの心血管保護)

2型糖尿病で心血管リスクの高い患者9,340名を対象とした試験。リラグルチド(GLP-1受容体作動薬)群はプラセボ群と比較して、主要心血管イベントが13%減少、心血管死が22%減少、全死亡が15%減少しました。同時にHbA1cを約0.4%低下させ、体重も平均2.3kg減少。GLP-1受容体作動薬の血糖降下・体重減少・心血管保護の「一石三鳥」効果が確立した画期的試験です(Marso SP et al. NEJM 2016)。

GLP-1受容体作動薬が向いている方

  • 肥満を伴う糖尿病で、強い体重減少効果を期待したい方
  • 食事量のコントロールが難しい方(食欲抑制効果)
  • 心筋梗塞・脳梗塞の既往がある方
  • 低血糖が怖い方(GLP-1単独では低血糖をほぼ起こさない)

病態別の薬剤選択─日本糖尿病学会のアルゴリズム

日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」(2022年)では、次の観点から薬剤を選びます。実際の診療では、これらを総合的に組み合わせて最適な処方を検討します。

病態・患者背景 優先されやすい薬剤
肥満型(BMI 25以上)・インスリン抵抗性主体 メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬
痩せ型・インスリン分泌低下主体 DPP-4阻害薬、グリニド薬、少量SU薬
心不全既往・心不全リスク高 SGLT2阻害薬(第一選択)
CKD(慢性腎臓病)合併 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬
心筋梗塞・脳卒中既往 GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬
高齢者(75歳以上)・フレイル DPP-4阻害薬(低血糖リスク少)
食後高血糖が主体 α-グルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬

同じ「糖尿病」でも薬は一人ひとり違う

以前は「まずメトホルミン、効かなければSU薬を追加」という画一的な治療が主流でした。しかし現在は、患者さんの体型、年齢、腎機能、心臓の状態、生活リズム、経済状況などを総合的に考慮して、一人ひとりに合った薬を選ぶ時代です。これが「個別化医療」の本質であり、同じ糖尿病の診断でも、処方される薬は患者さんによって大きく異なります。

CGM(リブレ)による個別化治療─当院の特長

糖尿病治療を大きく変えたもう一つの革命が、CGM(Continuous Glucose Monitoring、持続血糖モニタリング)です。代表的なFreeStyleリブレは、上腕に装着する500円玉大のセンサーが、24時間血糖値を連続測定します。スマートフォンや専用リーダーで、いつでも自分の血糖値と変動パターンを見ることができます。

従来の血糖管理は、HbA1c(過去1〜2ヶ月の平均血糖)指先穿刺による自己測定(SMBG、瞬間値)に頼っていました。しかしHbA1cは「平均値」でしかなく、食後の血糖スパイクや夜間低血糖など、実際の血糖変動を見逃してしまうという大きな欠点がありました。

CGMでわかる4つの「見えなかった血糖」

1 食後血糖スパイク(Time Above Range)
HbA1c(平均値)が同じでも、食後に180mg/dLを超える時間(Time Above Range)が長い人と短い人では、血管への負担が大きく異なります。国際コンセンサス(Battelino T et al. Diabetes Care 2019)では、目標血糖範囲(70〜180mg/dL)内に入っている時間の割合(Time in Range, TIR)を70%以上とすることが推奨されています。この「見えない高血糖」を可視化できることがCGMの最大の価値です。
2 夜間低血糖
就寝中の低血糖(特に高齢者・インスリン使用者)は自覚症状がなく、心血管イベントの引き金になります。
3 血糖変動の大きさ(血糖変動性)
平均値が同じでも、変動が大きい人ほど酸化ストレスが強く、合併症リスクが高まります。
4 食品・運動ごとの個人反応
「白米でもこの人は血糖が上がらない」「この人はパンより蕎麦で上がる」という個別パターンが可視化できます。

エビデンス:CGMはHbA1cを下げる

多施設無作為化試験で、インスリン多回注射を行う成人糖尿病患者に対してCGMを導入した群は、従来の指先測定群と比較して、24週間でHbA1cが有意に低下しました(Beck RW et al. Ann Intern Med 2017 [DIAMOND試験T2D]; Martens T et al. JAMA 2021 [MOBILE試験])。また基礎インスリンのみの2型糖尿病患者にも同様の効果が確認されています。

当院のCGM活用方針

竹内内科小児科医院では、以下のような方にCGMを積極的に活用しています:

  • インスリン治療中の患者さん(保険適用あり):血糖変動の最適化、低血糖回避
  • 血糖コントロールが難しい方:変動パターンから原因を特定
  • 食事療法の効果を実感したい方(自費・短期装着):どの食品でどれだけ血糖が上がるかを可視化
  • 境界型糖尿病・予備軍の方(自費・短期装着):発症予防のための行動変容ツール

院長五藤は、CGMデータを患者さんと一緒に解析し、食事・運動・薬剤の調整を個別化する診療を重視しています。ただ数値を見るだけでなく、「なぜこの時間に血糖が上がったのか」を患者さんと一緒に考えることで、納得感のある行動変容が生まれます。

糖尿病薬は老化を遅らせるか? ─ Geroscience(老化医科学)の視点

糖尿病治療の最前線を語るうえで、近年見逃せないテーマが「糖尿病薬が老化そのものを遅らせる可能性」です。これはGeroscience(老化医科学)と呼ばれる学問領域の核心的な問いです。「糖尿病・心血管病・がん・認知症はすべて加齢に伴って増える病気ですが、これらに共通する”老化”という土台そのものに薬で介入できれば、複数の病気を同時に減らせるのではないか」─この発想が、いま世界の老年医学の最前線で検証されています。

アメリカ国立老化研究所(NIA)は、寿命延伸・健康寿命延伸効果を有する可能性のある薬剤を、遺伝的に多様なマウスを用いて複数の独立した施設で同時に検証する「Interventions Testing Program(ITP)」という枠組みを2003年から運営しています。単一施設の結果に左右されず、厳格な標準作業手順(SOP)のもとで再現性を確認する、老化介入研究のゴールドスタンダードです。

エビデンス:NIA-ITPで寿命延長が確認された薬剤

NIA-ITPにおいて、マウスで有意に寿命を延ばすことが報告されている主な薬剤は、ラパマイシン(Harrison DE et al. Nature 2009)、アカルボース(Harrison DE et al. Aging Cell 2014)、17-α-エストラジオール(Harrison DE et al. Aging Cell 2014)、アスピリン(Strong R et al. Aging Cell 2008)、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)(Strong R et al. Aging Cell 2008)です。このうち、糖尿病治療薬である「アカルボース」が含まれている点は臨床的にも大変興味深い結果です。

ITP以外の研究では、メトホルミン(Martin-Montalvo A et al. Nat Commun 2013, マウスで健康寿命・寿命延長)、レスベラトロール(高脂肪食マウスで寿命延長、Baur JA et al. Nature 2006)、ACEi/ARBも候補薬として位置づけられています(Newman JC et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2016)。

メトホルミンと寿命・健康寿命

糖尿病治療薬のうち、メトホルミンは抗老化作用の可能性について最も多く研究されている薬剤です。その作用機序は、AMPK(エネルギーセンサー酵素)の活性化mTOR(細胞成長シグナル)の抑制IGF-1シグナルの低下慢性炎症(老化関連分泌表現型、SASP)の抑制といった、老化の基本メカニズムに広く関与することが知られています。

TAME試験(Targeting Aging with Metformin)

アメリカでは、65歳以上の約3,000人を対象に、メトホルミンが心血管病・がん・認知症・糖尿病・死亡といった複数の加齢関連疾患の発症を同時に遅らせるかを検証する大規模臨床試験「TAME試験」が計画されています。これは「老化」そのものをFDA(米国食品医薬品局)に疾患として認めてもらうという歴史的意義を持つ試験です(Newman JC et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2016)。

ただし重要なのは、こうした抗老化効果はあくまで研究段階であり、「健康な人が若返り目的で糖尿病薬を服用してよい」という話ではないということです。メトホルミンの長期観察研究では、短期的には糖尿病でない対照群と同等の生存を示したBannister CA らの報告(Diabetes Obes Metab 2014)がある一方、20年追跡したStevenson-Hoare Jらの再解析(2023)では長期的には糖尿病群の生存が短くなることも示されており、結果の解釈には慎重さが必要です。

SGLT2阻害薬が切り拓く新しい可能性

前述のEMPA-REG OUTCOME試験(Zinman B et al. NEJM 2015)で心血管死・全死亡の有意な低下が示されたSGLT2阻害薬は、血糖降下作用を超えた多面的効果(カロリー制限模倣、腎保護、抗炎症、心保護)を持つことが明らかになっています。Geroscience研究者の間でも、SGLT2阻害薬は次世代の抗老化候補薬として注目されています。

誤解してはいけないこと

「糖尿病薬が寿命を延ばす」という報道や情報がインターネット上で目立ちますが、現時点ではヒトでの明確な抗老化効果は証明されていません。健康な方への予防投与や、エビデンスが不十分な自己判断の内服は、副作用(乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下、脱水など)のリスクを負うだけで、メリットが不明確です。糖尿病でない方が抗老化目的で服用することは現時点で推奨されず、必ず医師の管理下で、適応に基づいた処方を受けることが重要です。

院長五藤は、糖尿病診療と抗加齢医学(アンチエイジング)の両方を専門としており、最新のGeroscience研究の知見を踏まえた診療を心がけています。糖尿病をお持ちの方にとって、「血糖を下げる」だけでなく「健康寿命を延ばす」という観点から最適な薬剤選択を一緒に考えていきます。

合併症の早期発見と予防─「三大合併症」と「大血管症」

糖尿病治療の最終目標は、合併症を防いで健康寿命を延ばすことです。合併症は大きく2つに分けられます。

細小血管症(糖尿病三大合併症)

合併症 症状・予後 推奨検査頻度
糖尿病網膜症 失明の主要原因。初期は無症状。進行すると硝子体出血・網膜剥離 眼科で年1回以上の眼底検査
糖尿病腎症 新規透析導入原因の第1位。初期は無症状 尿アルブミン・eGFRを年1〜2回
糖尿病神経障害 足のしびれ・痛み・感覚低下。足病変・壊疽の原因 問診・アキレス腱反射・振動覚を年1回以上

大血管症(動脈硬化性疾患)

糖尿病の方では、非糖尿病の方と比較して大血管症のリスクが大幅に上昇します。例えば、102の前向き研究・約70万人を統合したメタアナリシス(Emerging Risk Factors Collaboration, Lancet 2010)では、糖尿病患者における冠動脈疾患の発症リスクは約2倍(HR 2.00、95%CI 1.83-2.19)、虚血性脳卒中は約2.3倍(HR 2.27、95%CI 1.95-2.65)と報告されています。糖尿病は「動脈硬化促進病」とも言える病気で、血糖コントロールだけでなく、血圧・脂質・体重・禁煙を同時に管理することが重要です。

見逃してはいけないサイン

  • 視界がかすむ、飛蚊症が増えた → 眼底出血の可能性
  • 足先のしびれ、感覚低下、傷が治りにくい → 神経障害・血流障害
  • 尿が泡立つ → タンパク尿(腎症)の可能性
  • 階段で息切れ、胸の圧迫感 → 虚血性心疾患の可能性
  • 足が冷たい、歩くとふくらはぎが痛む → 末梢動脈疾患

食事療法─『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』の考え方

糖尿病治療の土台は、あくまで食事療法です。どんなに優れた薬を使っても、食事が乱れていては効果が半減します。しかし、「厳しいカロリー制限」「糖質完全カット」「一生続く我慢」といったイメージから、食事療法が続かない方は少なくありません。

院長五藤の著書『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』(アスコム、2024年)では、無理なく続けられる実践的な食事のアプローチを紹介しています。中性脂肪やコレステロールが気になる方、メタボから糖尿病への進行を防ぎたい方に向けた、科学的根拠に基づいたスープレシピをまとめた一冊です。

本書のポイント

  • 内臓脂肪を減らすための具体的な食材の選び方
  • 中性脂肪・LDLコレステロールを下げるスープレシピ
  • 忙しい方でも続けられる作り置き・時短メニュー
  • 血糖値の急上昇を抑える「食べる順番」
  • 医学的根拠(エビデンス)に基づく栄養学解説

詳しくはこちら:『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』(Amazonで見る)

糖尿病の食事療法では、「何を食べないか」だけでなく「何を優先的に食べるか」を考えることが大切です。野菜・海藻・きのこ・大豆製品・青魚を中心に、良質なタンパク質と食物繊維を意識的にとることで、自然と血糖と体重のコントロールが可能になります。

今日から実践できる5つの行動

1 薬を飲み忘れたら必ず医師に相談
自己判断での中断は血糖急変の原因になります。飲み忘れの対処法を主治医と共有しましょう。
2 年1回の合併症チェックを欠かさない
眼底検査(眼科)、尿アルブミン(内科)、足の診察(内科)、心電図・頸動脈エコー(内科)。症状がなくても検査は必須です。
3 食後の血糖変動を一度は見てみる
CGMの短期装着(2週間)で自分の血糖パターンを可視化。食事・運動の改善ポイントが明確になります。
4 食べる順番を「野菜→タンパク質→炭水化物」に
食物繊維とタンパク質を先に食べることで、食後血糖の上昇を緩やかにできます。
5 食後10分のウォーキング
食後すぐの軽い運動は、食後血糖のピークを明確に抑えます。激しい運動は不要。「食後は座らない」を習慣に。

まとめ─糖尿病治療は「個別化の時代」へ

糖尿病治療はこの10年で大きく変わりました。単に血糖値を下げる時代から、心臓・腎臓を守り、健康寿命を延ばす時代へ。そして、一人ひとりの病態に合わせて薬を選ぶ個別化医療の時代へと進化しています。

「糖尿病と診断されたけれど、何から始めたらいいかわからない」「薬を飲んでいるけれどこれでいいのか不安」「親が糖尿病なので、自分も早めに対策したい」──そんな方は、ぜひ当院にご相談ください。院長五藤が、あなたの病態・生活背景に合わせたオーダーメイドの治療プランをご提案します。

参照:
・日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド2024-2025』文光堂, 2024.
・日本糖尿病学会「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」(第2版)糖尿病 2023;66(10):715-733.
・Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, et al. ‘Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study.’ Diabetes Res Clin Pract. 1995;28(2):103-17.
・Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N. ‘Long-term results of the Kumamoto Study on optimal diabetes control in type 2 diabetic patients.’ Diabetes Care. 2000;23 Suppl 2:B21-9.
・UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. ‘Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34).’ Lancet. 1998;352(9131):854-65.
・Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al; EMPA-REG OUTCOME Investigators. ‘Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes.’ N Engl J Med. 2015;373(22):2117-2128.
・Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, et al; EMPA-REG OUTCOME Investigators. ‘Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.’ N Engl J Med. 2016;375(4):323-334.
・Marso SP, Daniels GH, Brown-Frandsen K, et al; LEADER Steering Committee; LEADER Trial Investigators. ‘Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes.’ N Engl J Med. 2016;375(4):311-22.
・Beck RW, Riddlesworth TD, Ruedy K, et al; DIAMOND Study Group. ‘Continuous Glucose Monitoring Versus Usual Care in Patients With Type 2 Diabetes Receiving Multiple Daily Insulin Injections: A Randomized Trial.’ Ann Intern Med. 2017;167(6):365-374.
・Martens T, Beck RW, Bailey R, et al; MOBILE Study Group. ‘Effect of Continuous Glucose Monitoring on Glycemic Control in Patients With Type 2 Diabetes Treated With Basal Insulin: A Randomized Clinical Trial.’ JAMA. 2021;325(22):2262-2272.
・Battelino T, Danne T, Bergenstal RM, et al. ‘Clinical Targets for Continuous Glucose Monitoring Data Interpretation: Recommendations From the International Consensus on Time in Range.’ Diabetes Care. 2019;42(8):1593-1603.
・Newman JC, Milman S, Hashmi SK, et al. ‘Strategies and Challenges in Clinical Trials Targeting Human Aging.’ J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016;71(11):1424-1434.
・Nadon NL, Strong R, Miller RA, et al. ‘Design of aging intervention studies: the NIA interventions testing program.’ Age (Dordr). 2008;30(4):187-199.
・Harrison DE, Strong R, Sharp ZD, et al. ‘Rapamycin fed late in life extends lifespan in genetically heterogeneous mice.’ Nature. 2009;460(7253):392-395.
・Harrison DE, Strong R, Allison DB, et al. ‘Acarbose, 17-α-estradiol, and nordihydroguaiaretic acid extend mouse lifespan preferentially in males.’ Aging Cell. 2014;13(2):273-282.
・Strong R, Miller RA, Astle CM, et al. ‘Nordihydroguaiaretic acid and aspirin increase lifespan of genetically heterogeneous male mice.’ Aging Cell. 2008;7(5):641-650.
・Martin-Montalvo A, Mercken EM, Mitchell SJ, et al. ‘Metformin improves healthspan and lifespan in mice.’ Nat Commun. 2013;4:2192.
・Baur JA, Pearson KJ, Price NL, et al. ‘Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet.’ Nature. 2006;444(7117):337-342.
・Bannister CA, Holden SE, Jenkins-Jones S, et al. ‘Can people with type 2 diabetes live longer than those without? A comparison of mortality in people initiated with metformin or sulphonylurea monotherapy and matched, non-diabetic controls.’ Diabetes Obes Metab. 2014;16(11):1165-1173.
・五藤良将『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』アスコム, 2024.
・The Emerging Risk Factors Collaboration, Sarwar N, Gao P, et al. ‘Diabetes mellitus, fasting blood glucose concentration, and risk of vascular disease: a collaborative meta-analysis of 102 prospective studies.’ Lancet. 2010;375(9733):2215-22.
・Cheong AJY, Teo YN, Teo YH, et al. ‘SGLT inhibitors on weight and body mass: A meta-analysis of 116 randomized-controlled trials.’ Obesity (Silver Spring). 2022;30(1):117-128.
・日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」(2020年3月18日改訂).
・Kaku K. ‘Pathophysiology of Type 2 Diabetes and Its Treatment Policy.’ JMAJ. 2010;53(1):41-46.
・五藤良将『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』アスコム, 2024.

DIRECTOR / AUTHOR
院長・著者紹介

五藤 良将(ごとう よしまさ)

医療法人社団五良会 理事長 / 竹内内科小児科医院 院長 / 五良会クリニック白金高輪 / 五良ファミリークリニックセンター南

糖尿病・代謝内科・抗加齢医学・温泉療法・美容内科を専門とし、NHKなどメディア出演多数。患者さん一人ひとりの病態に合わせた個別化医療を重視し、特にCGM(持続血糖モニター)を用いた糖尿病の精密管理と肥満症の統合診療に力を入れています。


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『血液と体の「あぶら」を落とすスープ』
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〒145-0072 東京都大田区田園調布本町40-12 コンド田園調布2階

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午後
15:30-19:00


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Author: 五藤 良将