動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版

2017年版から2022年版に動脈硬化性疾患予防ガイドラインは改定されました。

<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>

・随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定。
・脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした「久山町研究」のスコアが採用。
・糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDLc)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。なお、以下の表の高リスクとは、「糖尿病、末梢動脈疾患(PAD)、慢性腎臓病(CKD)」の患者さん群。
・二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDLcの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDLcの管理目標値は70mg/dL未満とした。


別の視点でまとめた図

です。以上の点を解説していきます。

【随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値の設定について】

フラミンガム研究で空腹時TG 150 mg/dL以上を高TG血症としていたが,空腹時より随時の方が,心血管イベント予想能が高いことが報告され2),ESC/EASガイドラインで随時TG 175 mg/dL以上も高TG血症とした3).また日本の疫学調査で冠動脈疾患の発症が空腹時TG 150 mg/dL以上で増加すること,随時TG 167 mg/dL以上でTG 84 mg/dL未満と比べ冠動脈疾患が2.86倍,心筋梗塞は3.14倍,狭心症は2.67倍,突然死は3.37倍上昇することが示されている4).以上のことから本ガイドラインから空腹時TG 150 mg/dL以上,随時TG 175 mg/dL以上を高TG血症とした.

【冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞をエンドポイントとした「久山町研究」のスコアを採用】

2017年版の吹田スコアの場合、研究アウトカムが「心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症」のみであり、脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDLcとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされています。

【LDLコレステロール(LDLc)の管理目標値】【二次予防の対象と目標値】

まず二次予防とは?一次予防とは?

エンドポイントである冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞にすでに罹ったことがある場合でまた罹患するのを防ぐための治療を二次予防といい、まだ、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞に罹患していないが予防することを一次予防と言います。
 一次予防は将来の冠動脈疾患発症を予防することが管理目的になるので原則として一定期間生活習慣の改善に努力しその結果を評価した後に薬物療法の適応を検討します。高リスク群となる「糖尿病、末梢動脈疾患(PAD)、慢性腎臓病(CKD)」の方の一次予防はLDLcは120mg/dl未満であるものの、糖尿病に加えて「細動脈合併症(網膜症、腎症、神経障害)、PAD、喫煙あり」の場合にはLDLcは100mg/dl未満が目標となります。

二次予防としてのLDLcの目標値は100mg/dL未満となりました。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」のある高高リスクの場合は、LDLcの管理目標値は70mg/dL未満とした。リスクのある患者さんにはより強化してLDL管理することがガイドラインでも明記されたのでした。
 《心筋梗塞患者の再発予防に関する患者・多職種医療者意識調査》(2021年6月18日~2021年6月25日)で、心筋梗塞を3年以内に発症した経験のある患者さんの再発予防に対する意識は非常に高く、約8割の患者さんが何かしらの再発予防のための取り組みを行っていることが分かりました。その一方で、重要な再発リスク因子あり、動脈硬化性疾患予防ガイドラインに記載されている脂質の管理目標値「LDLコレステロール(LDLc)値70mg/dL未満」について正確に理解している患者さんはわずか23%でした。また、薬剤師、循環器内科病棟に勤務経験のある看護師のLDL-C管理目標値の理解も50%でした。多職種医療者(薬剤師、看護師)におけるハイリスク患者の脂質管理目標値「LDL-C70mg/dL未満」の理解も半数(50%)であり、患者だけでなく、患者の継続的な症状管理を支える多職種医療者の理解向上も求められる結果でした。
 SPARCLという大規模臨床試験で、特に強力なstatinによるLDL-コレステロール(以下LDLc)の低下療法は77mg/dL未満に至るまで直線的に脳卒中の再発予防効果が認められ、The lower,the better(低いほどよい)と評された。その後さらに ezetimibe やPCSK9 阻害薬を追加投与する試験でも、LDLc値が30mg/dLに至るまで直線的にLDLcの低下と脳卒中の発症抑制に相関が認められ、LDLcはさらに低いほどよいことが示唆されている。一方で、日本人はじめとしたアジア人、低体重者、75歳以上の高齢者、低リスク患者などでは必ずしもLDLcを70mg/dL未満に抑制する効果が得られず、背景リスクに合わせた脂質管理が重要である。日本人脳梗塞患者を対象に、pravastatinの再発予防効果を検討した試験がJ-STARS試験であり、平均4.9年間の観察期間にてLDLcは104mg/dLとプラセボ126mg/dLと比較して有意に低下し、このとき全脳卒中・TIAの発症率は変わらなかったが、アテローム血栓症の発症率はHR 0.33と顕著に低下した。さらにJ-STARS試験のサブ解析では、pra-vastatin 投与後のLDL-C値を層別に解析すると80-100mg/dLの群で脳卒中再発が最も抑制されており、日本人集団においては必ずしもThe lower, the betterではない可能性が示唆された。

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Author: 五藤 良将