髄膜炎菌ワクチン|メンクアッドフィとBEXSERO(B群)の両方が大切な理由




髄膜炎菌ワクチン:メンクアッドフィだけでは不十分?
B群髄膜炎菌ワクチン BEXSERO の重要性

竹内内科小児科医院|院長 五藤良将(糖尿病内科・感染症)

海外留学や赴任に際して「髄膜炎菌ワクチン」の接種を求められ、当院にご相談にいらっしゃる方が増えています。

多くの医療機関では、国内承認されている四価ワクチン「メンクアッドフィ(MenQuadfi)」の接種のみで対応していますが、実はこのワクチンだけではすべての髄膜炎菌を予防することはできません。メンクアッドフィがカバーするのはA群・C群・W群・Y群の4つの血清群であり、B群髄膜炎菌には効果がないのです。

B群髄膜炎菌は、特に欧米諸国において侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の主要な原因であり、日本国内でもその割合が増加傾向にあります。当院では、B群髄膜炎菌ワクチン「BEXSERO(ベクセロ)」(輸入ワクチン)も取り扱っており、より包括的な予防が可能です。

この記事では、髄膜炎菌感染症がなぜ恐ろしいのか、なぜ2種類のワクチンが必要なのかについて、最新の疫学データとともに詳しく解説いたします。

1. 髄膜炎菌感染症(IMD)とは ── 24時間で命を奪う感染症

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、細菌性髄膜炎や敗血症を引き起こす細菌です。大流行を引き起こす細菌性髄膜炎の原因菌としては唯一の存在であり、「流行性髄膜炎」とも呼ばれます。

髄膜炎菌感染症が恐ろしい理由

初期症状は発熱・頭痛・倦怠感など風邪とほぼ区別がつきません。しかし、発症から24~48時間以内に急速に重症化し、適切な治療がなされても致命率は10~15%に達します。

生存者の約10~20%に、四肢切断、聴力障害、認知機能障害、腎不全など重篤な後遺症が残ることがあります。

感染経路は咳やくしゃみ、キスなどの飛沫感染です。健康な人の鼻咽頭にも低頻度ながら常在しており(日本の成人で0.4~0.8%)、特に寮生活やスポーツ合宿、大規模イベントなど密な集団生活でリスクが高まります。

髄膜炎菌感染症の典型的な経過

1初期(0~12時間):発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感 ── 風邪と区別がつかない

2進行期(12~24時間):高熱、激しい頭痛、嘔吐、項部硬直、点状出血斑の出現

3重症化(24~48時間):意識障害、痙攣、紫斑(体幹・下肢)、ショック、DIC(播種性血管内凝固症候群) ── Waterhouse-Friderichsen症候群への進展

4転帰:死亡または重篤な後遺症(四肢壊死による切断、難聴、腎不全など)

この感染症の特徴は、早期診断が極めて困難なことにあります。初期段階では一般的な風邪症状と見分けがつかず、典型的な髄膜炎症状が出現した時点ではすでに重症化が進行していることが多いため、ワクチンによる予防が非常に重要です。

2. 髄膜炎菌の「型」と地域差 ── なぜB群が重要なのか

髄膜炎菌は莢膜多糖体の糖鎖の違いにより少なくとも12の血清群に分類されますが、侵襲性感染症の大部分はA群・B群・C群・W群・X群・Y群の6つの血清群によるものです。そして、感染を起こす型の割合は地域によって大きく異なります

世界の血清群分布(系統的レビュー 2000~2017年)

世界全体のIMDの約48.5%がB群によるものと報告されており、B群は世界的に最も重要な血清群です。

出典:Infect Dis Ther 2024; 13:2489-2507

主な地域別の血清群分布:

地域 主な血清群
北米(米国・カナダ) B群・C群・Y群が主体。大学キャンパスでのB群アウトブレイクが問題
ヨーロッパ(英国・EU) B群が50~80%と圧倒的。英国は乳児へのBexsero定期接種を実施
オーストラリア B群が最多。州により定期接種プログラムあり
アフリカ(髄膜炎ベルト) A群・W群が主体。大規模流行の歴史あり
日本 Y群が最多だが、近年B群の割合が増加(後述)

3. 日本国内の最新疫学データ ── B群の割合が増加

国立感染症研究所の最新報告(2025年1月更新)によると、日本国内の侵襲性髄膜炎菌感染症の動向に重要な変化が生じています。

国内IMDにおけるB群の割合が増加

2013年4月~2020年3月(COVID-19流行前):B群 20%(39/198例)

2020年4月~2024年6月(COVID-19流行後):B群 36%(19/53例)

B群の割合が約1.8倍に増加しており、四価ワクチン(A/C/W/Y群)だけではカバーできない症例が増えています。

出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査(2025年1月20日時点)

年齢別の血清群分布(2023年~2024年、国内87例)

14歳以下:B群が63%(5/8例)と大半を占める

15歳以上:Y群が61%(48/79例)、B群が24%(19/79例)

特に小児・若年層ではB群のリスクが顕著であり、留学予定の若年者にとってB群ワクチンの重要性は極めて高いといえます。

出典:国立感染症研究所「最近2年間(2023年、2024年)の侵襲性髄膜炎菌感染症の届出状況のまとめ」

また、2023年以降はCOVID-19流行中に減少していたIMD報告数が流行前の水準に戻りつつあり、2024年は6月時点で29例と増加傾向にあります。20歳代の報告割合も増加(8%から17%)しており、大学生や若い社会人の世代での注意が必要です。

4. 2つのワクチンの比較 ── メンクアッドフィとBEXSERO

項目 メンクアッドフィ(MenQuadfi) BEXSERO(ベクセロ)
製造元 サノフィ社 GSK社
カバーする血清群 A群・C群・W群・Y群 B群
ワクチンの種類 結合型(破傷風トキソイド結合体) 組換え型(4つの表面抗原+OMV)
国内承認 承認済み(2023年2月~) 未承認(輸入ワクチン)
海外での承認状況 米国、EU等で広く承認 米国、英国、EU、豪州、カナダ等40か国以上で承認
接種回数 通常1回 2回(0, 6か月)または3回(0, 1~2, 6か月)
接種対象年齢 2歳以上 10歳以上(海外では生後2か月から使用)
当院での費用(税込) 24,000円/1回 27,500円/1回

ACIP最新推奨(2024年10月更新):BEXSEROの接種スケジュール変更

2024年8月のFDA承認に基づき、2024年10月に米国ACIPがBEXSEROの推奨スケジュールを更新しました。

健康な16~23歳:2回接種(0か月、6か月)── 共有臨床意思決定(Shared Clinical Decision-Making)に基づく

感染リスクが高い10歳以上:3回接種(0か月、1~2か月、6か月)── 補体欠損症、無脾症、微生物学的曝露リスクのある方など

出典:CDC MMWR 2024年12月; Recommendations for MenB-4C

5. 渡航先・目的別の接種パターン

渡航先や目的によって、必要なワクチンの組み合わせが異なります。以下に主な接種パターンをまとめました。

渡航先・目的 メンクアッドフィ BEXSERO 備考
米国大学進学(寮生活) 必須 強く推奨 多くの大学がB群ワクチンも要求。Princeton大学等でのアウトブレイク事例あり
英国大学進学 必須 強く推奨 英国ではB群が最多。NHSで乳児定期接種実施
カナダ・豪州留学 必須 強く推奨 B群が主要血清群
アフリカ髄膜炎ベルト渡航 必須 リスクに応じて A群・W群が主体の地域
サウジアラビア巡礼 入国要件 リスクに応じて ハッジ・ウムラ参加者は接種証明が必要
国内(寮生活・スポーツ合宿) 推奨 推奨 国内B群増加傾向。大規模イベント参加者も検討
免疫不全者(補体欠損症・無脾症等) 必須 必須 両ワクチンの接種が強く推奨される

6. 接種スケジュールと費用

当院での接種費用(税込・自費診療)

メンクアッドフィ(MenACWY)24,000円(税込)/ 1回接種

BEXSERO(MenB)27,500円(税込)/ 1回あたり

いずれも任意接種(自費)です。健康保険は適用されません。

メンクアッドフィは通常1回接種で基本的な免疫を獲得できます。感染リスクが持続する場合は5年ごとのブースター接種が推奨されます。

BEXSEROは2024年10月のACIP更新に基づき、健康な方は2回接種(0か月、6か月)が標準です。渡航まで6か月未満の場合は3回接種(0か月、1~2か月、6か月)により早期の免疫獲得を目指すことが可能です。

渡航前の接種計画は早めにご相談ください

BEXSEROは輸入ワクチンのため、在庫確保にお時間をいただく場合がございます。渡航予定の少なくとも2~3か月前にはご相談ください。

メンクアッドフィとBEXSEROは同日に別部位での同時接種が可能です。ただし、他のワクチンとの接種間隔については医師にご確認ください。

7. よくあるご質問(FAQ)

Q. メンクアッドフィだけでは不十分ですか?

メンクアッドフィはA群・C群・W群・Y群をカバーする優れたワクチンですが、B群には効果がありません。厚生労働省検疫所「FORTH」でも「四価ワクチン(A/C/W/Y群)ではB群は予防できない」と明記されています。欧米ではB群が50%以上を占める地域もあり、特に留学される方には両方のワクチン接種を強くお勧めします。

Q. BEXSEROは日本で承認されていませんが安全ですか?

BEXSEROは米国・英国・EU・オーストラリア・カナダなど世界40か国以上で承認されており、英国では2015年から乳児の定期接種に採用されています。臨床試験では15,000人以上を対象に安全性が確認されており、長年の実績があります。日本では未承認ですが、国際標準に基づいた品質のワクチンです。

Q. 両方のワクチンを同時に接種できますか?

はい、メンクアッドフィとBEXSEROは同日に別の腕(または同側の別部位)に接種することが可能です。臨床データでは、同時接種による免疫応答への悪影響は認められていません。

Q. 副反応はどのようなものがありますか?

両ワクチンとも主な副反応は接種部位の疼痛・発赤・腫脹、発熱、頭痛、倦怠感です。BEXSEROでは筋肉痛や吐き気が見られることもあります。重篤な副反応(アナフィラキシーなど)は極めてまれですが、接種後15~30分は院内で経過観察をお願いしております。

Q. 日本国内で生活する場合もワクチンは必要ですか?

日本国内のIMD発生率は諸外国と比較して低いものの(0.028/10万人)、2023年以降は報告数が増加傾向にあります。特に寮生活を送る方、スポーツ合宿に参加される方、大規模イベントに参加される方は検討されることをお勧めします。補体欠損症や脾臓摘出後の方には渡航の有無にかかわらず両ワクチンの接種が推奨されます。

Q. 大学入学時に接種証明書を求められました。対応できますか?

はい、当院では英文の接種証明書の発行も承っております。米国の大学では入学前にMenACWYの接種証明書の提出が必須であり、近年はMenB(B群)ワクチンの証明も求められるケースが増えています。ご入学先の要件をお持ちいただければ、必要なワクチン接種と証明書発行を一括で対応いたします。

参考文献・出典

1. 国立感染症研究所「感染症法に基づく侵襲性髄膜炎菌感染症の届出状況のまとめ(更新)2013年4月~2024年6月」

2. 国立感染症研究所「最近2年間(2023年、2024年)の侵襲性髄膜炎菌感染症の届出状況のまとめ」(2025年1月20日時点)

3. 厚生労働省「侵襲性髄膜炎菌感染症発生時 対応ガイドライン〔第二版〕」(2025年3月)

4. 厚生労働省検疫所 FORTH「海外渡航のためのワクチン」

5. CDC MMWR. New Dosing Interval and Schedule for the Bexsero MenB-4C Vaccine. December 2024.

6. CDC. Meningococcal Vaccine Recommendations. 2025.

7. N Engl J Med. Effectiveness of a Meningococcal Group B Vaccine (4CMenB) in Children. 2023.

8. Infect Dis Ther 2024; 13:2489-2507(系統的レビュー)

9. Ladhani SN, et al. Vaccination of infants with meningococcal group B vaccine (4CMenB) in England. N Engl J Med. 2020;382(4):309-317.

院長 五藤 良将



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