皆さま、こんにちは。竹内内科小児科医院 院長の五藤良将です。
患者さんから「家庭血圧を測ってください」とお伝えすると、こんなご質問をいただくことがあります。
「朝の測定条件が『起床後1時間以内・排尿後・朝食前・服薬前』って、全部同時に満たすのは無理じゃないですか?」
実はこれ、とても鋭い疑問です。結論から申し上げると、これらの条件は矛盾しているのではなく、「一連の流れ」として設計されているので、順番さえ知っていれば自然とすべて満たせます。
今回は、2025年8月に改訂された最新の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」の内容もふまえながら、家庭血圧の正しい測り方と、なぜ「朝の血圧」がこれほど重視されるのかを詳しく解説いたします。
1. JSH2025で家庭血圧はどう変わった?
2025年8月、日本高血圧学会は6年ぶりに高血圧ガイドラインを改訂しました。ガイドラインの名称も「高血圧治療ガイドライン」から「高血圧管理・治療ガイドライン」に変更され、薬で治療する前に「管理する」ことの重要性が打ち出されました。
JSH2025の主な変更ポイント
降圧目標の統一:年齢・合併症を問わず、診察室血圧 130/80 mmHg未満、家庭血圧 125/75 mmHg未満 に一本化されました。従来の「75歳以上は140/90未満」という段階的目標はなくなり、シンプルになっています。
家庭血圧の重視:診察室での一時的な測定よりも、朝晩の家庭血圧の平均が治療方針を決める中心的指標となりました。
「朝活BP」キャンペーン:早朝高血圧対策を社会全体で強化する方針が明記され、朝の血圧を130 mmHg未満にする啓発活動が推進されています。
尿Na/K比の活用:減塩だけでなく、カリウム摂取量とのバランスを「見える化」する新しい評価法が推奨されました。
つまり、「家庭で毎日、正しく血圧を測ること」が、これまで以上に高血圧治療の出発点となったのです。
2. 朝の測定条件 ── 全部満たせる「起床後ルーティン」
JSH2025(およびJSH2019から継続)で定められた朝の家庭血圧測定の条件は、以下の通りです。
朝の測定条件(JSH2025)
| タイミング | 起床後 1時間以内 |
| 排尿 | 排尿後(膀胱充満は血圧上昇の原因) |
| 食事 | 朝食前 |
| 服薬 | 降圧薬の服用前 |
| 姿勢 | 座位で 1~2分安静にした後 |
| 回数 | 2回測定し、平均値を記録 |
一見すると条件が多く見えますが、実は以下のような「起床後ルーティン」にすれば、自然とすべて満たされます。
朝の血圧測定ルーティン(5ステップ)
1起床(ここから1時間以内に測定すればOK)
2トイレへ(排尿を済ませる)
3椅子に座って1~2分安静(深呼吸しながらリラックス)
4血圧を2回測定(平均値を記録)
5朝食・服薬(測定が終わってから食べる・飲む)
お気づきでしょうか? 「測ってから食べる・飲む」という順番さえ守れば、「朝食前」「服薬前」は自動的にクリアされます。起床 → トイレ → 座って測定 → 朝食 という流れは、実はごく自然な朝の動線なのです。
注意が必要なケース
起床後すぐに降圧薬を飲む習慣がある方:測定を先に済ませるよう順番を変えましょう。「服薬前」に測ることで、薬が切れた状態(=最も血圧が上がりやすい時間帯)の血圧がわかり、治療効果の判定に役立ちます。
糖尿病で低血糖予防のためにまず食事が必要な方:主治医とご相談のうえ、優先順位を決めてください。
3. 夜の測定条件 ── 朝よりシンプル、でも注意点あり
夜(就寝前)の測定条件は、朝に比べるとぐっとシンプルです。
夜(就寝前)の測定条件(JSH2025)
| タイミング | 就寝前 |
| 姿勢 | 座位で 1~2分安静にした後 |
| 回数 | 2回測定し、平均値を記録 |
| 排尿 | 特に指定なし |
朝と比べて、「排尿後」という条件は明記されていません。また「食前」「服薬前」の指定もありません。ただし、以下の行為の直後は血圧が一時的に変動するため、避けるべきとされています。
就寝前の測定で避けるべきこと
入浴直後:血管が拡張して一時的に血圧が下がるため、少なくとも30分以上あけましょう。
飲酒直後:アルコールは一時的に血圧を下げますが、その後反跳的に上昇します。正確な値になりません。
食事直後:食後は消化管への血流が増加し、血圧が変動します。食後1時間以上あけるのが理想です。
したがって、夜の測定ルーティンとしては、「入浴・飲酒・食事から十分に時間をあけ → 椅子に座って1~2分安静 → 2回測定」という流れがおすすめです。
朝と夜の測定条件の比較
| 条件 | 朝(起床後) | 夜(就寝前) |
|---|---|---|
| タイミング | 起床後1時間以内 | 就寝前 |
| 排尿 | 必須(排尿後) | 指定なし |
| 食事 | 朝食前 | 直後を避ければ可 |
| 服薬 | 降圧薬の服用前 | 指定なし |
| 座位安静 | 1~2分 | 1~2分 |
| 測定回数 | 2回(平均値を記録) | 2回(平均値を記録) |
| その他の注意 | ― | 入浴・飲酒の直後を避ける |
4. なぜ「朝の血圧」がこんなに大切なのか?── モーニングサージの脅威
JSH2025が「朝活BPキャンペーン」まで打ち出して朝の血圧管理を強調する背景には、「モーニングサージ」と呼ばれる現象があります。
モーニングサージとは?
血圧には日内変動があり、通常は夜間の睡眠中に10~20%低下し、起床とともに上昇します。この朝の血圧上昇が異常に大きい状態を「モーニングサージ」と呼びます。
早朝高血圧の2つのタイプ
1モーニングサージ型:夜間にいったん血圧が下がるものの、明け方から起床時にかけて急激に上昇するタイプ。高齢者、高コレステロール、多量飲酒者に多い。
2夜間高血圧持続型(Non-dipper/Riser型):睡眠中も血圧が十分に下がらず、早朝まで高い状態が続くタイプ。糖尿病、腎障害、睡眠時無呼吸症候群の方に多い。
モーニングサージが危険な理由
心筋梗塞や脳卒中が最も多く発生する時間帯は、午前6時~12時です。この時間帯には以下のような変化が同時に起こっています。
早朝に起こる「危険の連鎖」
1交感神経の急激な活性化 → 血管が収縮し、血圧が上昇
2レニン-アンジオテンシン系の活性化 → さらなる血圧上昇と血管壁への障害
3血小板の活性化 → 血栓ができやすい状態に
4PAI-1(血栓溶解阻害因子)の増加 → できた血栓が溶けにくくなる
エビデンス:モーニングサージと脳卒中リスク
自治医科大学ABPM研究では、モーニングサージ型の高血圧患者は、そうでない患者に比べて脳卒中リスクが約2.7倍高いことが報告されています。
さらに、仮面高血圧(病院では正常だが家庭で高血圧)は、心血管イベントリスクが正常血圧者の3.8倍に上ります。降圧薬で治療中の患者でも、約半数で早朝の血圧が135/85 mmHg以上であったとの報告もあります。
これが、「朝、家で測らないと見つからない高血圧がある」と言われるゆえんです。
冬の月曜日の朝 ── 最もリスクが高い時間帯
モーニングサージには週変動と季節変動があることもわかっています。心臓突然死とモーニングサージの発生はともに月曜日が最多で、日曜日の約2倍です。さらに寒い季節に増強されるため、冬の月曜日の朝が最もリスクの高い時間帯と考えられています。
冬場の朝、薄着のまま新聞を取りに行ったり、ゴミ出しに行ったりすることは、血圧の急上昇を招きかねません。温かい服装をしてから外に出る、室内を暖めてから活動するなどの工夫が大切です。
5. 血圧計の選び方と測定のコツ
上腕式を選びましょう
JSHガイドラインでは、上腕式(カフ巻きつけ型)の血圧計が推奨されています。手首式は姿勢によって測定値がばらつきやすく、正確性の面で上腕式に劣ります。
正しい測定のための7つのポイント
1. 上腕式血圧計を使用:手首式は参考程度に。
2. カフは素肌か薄いシャツの上に:厚手の服の上から巻くと値が不正確になります。
3. カフの高さは心臓と同じ:テーブルに前腕を置き、カフが心臓の高さになるようにします。
4. 背もたれのある椅子に座る:足は組まず、両足を床につけてください。
5. 1~2分安静にしてから測定:直前の動作の影響を排除します。
6. 2回測定して平均を記録:1回目と2回目で差が大きい場合は追加測定も可。
7. 会話しない、テレビを観ない:測定中は静かにリラックスしましょう。
血圧手帳やアプリを活用しましょう
JSH2025では、スマホアプリやデジタル機器の活用が推奨されています。毎日の記録を「見える化」することで、自分の血圧の傾向がわかり、モチベーション維持にもつながります。多くの血圧計メーカーから専用アプリが提供されていますので、ぜひ活用してみてください。
もちろん紙の血圧手帳でも十分です。大切なのは「記録して、受診時に主治医と共有すること」です。
6. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 朝の測定で1回目と2回目の差が大きいのですが、どちらを採用すべきですか?
JSH2025では「2回の平均値」を記録することが推奨されています。1回目は緊張や直前の動作の影響を受けやすいため、平均することで日々の比較がしやすくなります。もし2回の差が極端に大きい場合(収縮期で20 mmHg以上など)は、もう1回追加して測定するのもよいでしょう。
Q2. 毎日測らないとダメですか?忙しくて時間がありません。
毎日測定が理想ですが、週に数日でも構いません。大切なのは、日によって値がばらつく中での「平均的な傾向」を把握することです。一日一回でも、「測らないよりは測る」ことが重要です。なお、受診日の前の5~7日間はなるべく毎日測っていただくと、主治医が治療方針を判断しやすくなります。
Q3. 夜は入浴後に測るのがダメなら、いつ測ればいいですか?
入浴後30分以上経過してから測定するのが理想です。例えば「入浴 → テレビや読書で休憩 → 就寝前に測定」というルーティンにすると、自然と十分な時間があけられます。寝る直前に静かに座って測定するのがベストです。
Q4. 朝と夜で血圧が20 mmHg以上違うのですが、異常ですか?
血圧に日内変動があるのは正常な生理現象です。一般的に朝の方が夜より高めになりますが、その差が常に大きい場合(朝が著しく高い、あるいは夜も下がらない)は、早朝高血圧や夜間高血圧の可能性があります。記録を持参して主治医にご相談ください。
Q5. 病院で測ると高いのに家では正常です。どちらが本当の血圧ですか?
「白衣高血圧」と呼ばれる状態で、診察室での緊張が原因です。JSH2025では、家庭血圧の方がより正確に将来の心血管リスクを予測するとされており、治療方針は家庭血圧を重視して決定します。ただし白衣高血圧でも将来的に持続性高血圧に移行する可能性があるため、定期的なフォローアップは必要です。
Q6. 逆に、家では高いのに病院では正常と言われます。大丈夫ですか?
これは「仮面高血圧」と呼ばれ、実は白衣高血圧よりも危険です。研究では、仮面高血圧の心血管リスクは正常血圧者の約3.8倍にのぼるとされています。病院での測定では見落とされるため、家庭血圧の記録が極めて重要です。必ずデータを主治医に見せてください。
Q7. 左右の腕で血圧が違います。どちらで測るべきですか?
最初に左右両方で測り、高い方の腕で統一して測定してください。左右差が常に15 mmHg以上ある場合は、動脈の狭窄など血管の問題が隠れている可能性がありますので、主治医にご報告ください。
7. まとめ ── 「1日2回の習慣」が命を守る
この記事のポイント
朝の測定条件は「一連の流れ」:起床 → トイレ → 座って安静 → 測定 → 朝食・服薬 という順番で、すべての条件が自然と満たされます。
夜はシンプル:就寝前に座って1~2分安静にして測定。入浴・飲酒・食事の直後は避けましょう。
朝の血圧は特に重要:モーニングサージは脳卒中・心筋梗塞リスクを約2.7倍に高めます。病院では発見できない「隠れた危険」を見つけるためにも、朝の家庭血圧測定が不可欠です。
JSH2025の目標は125/75 mmHg未満:家庭血圧の目標がシンプルに統一されました。朝晩の平均で管理しましょう。
記録して、共有する:血圧手帳やアプリで記録し、受診時に主治医に見せることが最も効果的な「治療への参加」です。
高血圧は日本において約4,300万人が罹患しているとされ、その管理は依然として大きな課題です。JSH2025が「管理」という言葉を前面に出したように、病院に行く前の「日々の自己管理」が治療の出発点です。
1日2回、ほんの数分の習慣が、脳卒中や心筋梗塞のリスクを大きく下げてくれます。まずは明日の朝から、「起床 → トイレ → 座って測定 → 朝食」のルーティンを始めてみませんか?
血圧が気になる方、すでに降圧薬を服用されている方、家庭血圧の測り方に不安がある方は、ぜひ竹内内科小児科医院にお気軽にご相談ください。血圧手帳の記録をもとに、お一人おひとりに合った血圧管理をご一緒に進めてまいります。
竹内内科小児科医院 院長 五藤良将
参考文献
1. 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」2025年8月
2. 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」
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7. Bobrie G, et al. Masked hypertension: a systematic review. J Hypertens. 2008;26(9):1715-1725.
8. オムロンヘルスケア「早朝高血圧とは。早朝高血圧の種類とリスク」
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